少なからぬ学校で授業外学習時間の目標値を設定していますが、「平日の平均で2時間以上」といった目標を振り回すだけで学習時間の延伸という実効が得られたケースはあまり見かけないように思います。
家庭学習時間の目標をクリアしたところに何が待っているかも曖昧なままかもしれませんし、そこまでの時間を勉強に投じる必要が本当にあるかどうかも検証されていないのではないでしょうか。
また、ものすごく沢山勉強している一握りの生徒が平均を押し上げ、大半の生徒は30分未満という状態では、授業外学習の充実という目標を達成したことにはなりません。
問題点は大きく分けて3つほどありそうです。
- 学習時間の目標値はどのように決められているのか(妥当なのか)
- 調査や集計が検証可能なデータの取れる方法で行われているか
- 学習時間を延伸する方策として宿題を増やすのが合理的なのか
これらの前に、「なぜ学習時間を把握し、伸ばす努力が必要なのか」という問いに明確な答えが共有されているかという問題もありそうです。
❏ きちんと勉強させるから力を伸ばせる
しっかり時間をかけて勉強すれば伸びる生徒がろくに勉強せずに過ごしているのを放置するのも、一人ひとりの能力を伸ばしきれない/可能性を眠らせてしまうという点で好ましくないのも事実だと思います。
また、せっかく学習時間調査を行っても、そこで得られたデータを用いて有効な改善策が打ち出されなかったとしたら、その先にある目標は達せられないことになり、調査のコストだけ無駄を重ねたということになりかねません。
個人的には、適正な時間を勉強に投じさせる一つの方法として、学習時間に目安を設けることには十分な合理性があるとの考えでおりますが、そうした指導を行うからには、如上の問題をクリアして、きちんとした形でやった方が弊害も少なくなるはずです。
❏ 目標とする学習時間は適正なのか
家庭学習時間の目標値として、昭和の昔から「学年プラス1時間」などがあったりしますが、この目標水準は一体どこから導き出されてきたのでしょうか。
大学設置基準には「一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、…」とありますが、ここでの規定と中学・高校の家庭学習時間とは根源的に話が違います。
各科目の授業設計に照らして、授業一回当たりの標準的な授業外学習時間は想定できるはずですから、それを足し上げて週当たりの授業外学習時間の目安を立てるのが合理的かもしれません。
学習時間の延伸/家庭学習の習慣形成に向けた指導の目標達成管理に際しては、「如上の目安に到達した生徒の割合(到達率)」を用いるのが好適だと思います。
❏ もう少し”科学的”に目標値を設定しようとするなら
家庭学習において如上の目安を達成した生徒と、達成できなかった生徒を分けて、それぞれの成績推移分布に有意差が確認できれば、目安値としての合理性もある程度は検証できたことになりそうです。
また、逆のアプローチとして、成績に上昇がみられた生徒群、維持している生徒群、下降している生徒群を分けて、学習時間とのクロス集計を行う方法もあります。
クロス集計表の残差分析を行い、成績を維持・上昇させるのに有意に働く学習時間の水準を探すこともできます。
実際に幾つかの学校で作業をお手伝いしたときの結果では、目標とする大学群や入学時の成績層、部活との両立の取り組みなど幾つかのファクターによって「境界」となる学習時間には違いも見られました。
総合成績と総学習時間をデータにしても、如上の分析はできません。科目や教科ごとに成績と学習時間のデータが揃っていることが前提です。
学習時間の目安値を科学的に決めようとするなら、学習時間調査の方法から見直していく必要があるということです。
その2に続く。