参観メモをもとに小グループで気づきの交換
授業改善を目的とする取組のひとつに研究授業があります。複数の先生が同じ授業を参観した後で研究協議に臨むという枠組みは同じですが、後半の研究協議のやり方次第では、より良い授業の実践に向けて得られる知見(=研究授業の成果)の質と量に大きな違いが生じます。
2017/10/25 公開の記事をアップデートしました。
❏ 効果の上がる研究授業、形だけで終わる研究授業
せっかく協議の場を持っても、「素晴らしい授業を見せていただき、有難うございました」にちょっとしたコメントを添えるだけで、より良い学ばせ方への考察や議論の掘り下げにならないケースも散見されます。
その一方で、先生方が活発に協議に参加し、互いの発言に多くの気づきを交換し、授業改善への着想と具体的な手法が共有されるとともに、新たなヒントが生み出されていくような研究協議も有ります。
中には、次の機会に向けて研究テーマが設定、共有され、参加の各先生が自教室に持ち帰って研究と実践を重ねて、その成果を次回の研究授業に持ち寄るというサイクルが出来上がっている現場だってあります。
授業公開+研究協議という枠組み自体は同じでも、こうした小さからぬ違いが生じているのが現実です。同じコスト(時間とエネルギー)を投じるならば、手順や方法を少し工夫し、より大きな実りを得たいもの。実りに応じて、研究授業を継続していく意欲も膨らんでいくはずです。
❏ 先ずは、参観者の間で気づきの交換&共有
同じもの(50分の授業実践)を観ても、それぞれの参観者のバックグラウンドにより、気づくポイントが異なります。
互いの気づきを交換することで、単なる足し算ではなく、気づきどうしが結び付き合ってより大きな知見が生まれるもの。
授業を観て得た気づきを自分の中だけで膨らませていくのと、他の先生の気づきに触れて別の見方を加えていくのとでは、着想の広がりも、得られる知見も、何倍もの大きさ(広さと深さ)になるはずです。
少なからぬ現場(参観+協議)の場でよく見かける、昔ながらの「参加者全員が順番に感想/所見を発言する」というパターンのままでは、気づきの交換を大きくしていくやり取りには中々なりにくいようです。
「ここまで言ってよいのか」「自分の見立ては正しいのか」という遠慮や不安を感じていれば、気づきにストレートな表現を与えられず、結果的に参加者全体の気づきの総量も小さくなってしまいます。
加えて、他の参加者の発言に触れて新たな気づきを得ても、発言の順番を待たなければならない雰囲気では、口を挟むのを躊躇います。すでに順番を終えていたら、発言のチャンスはもう回ってこないかも。気づきは本人だけのものに止まり、共有財産になりません。
全員で集まって意見を交換するフェイズの前に、まずは小さなグループで、気負わずに意見や感想を交換する場を設けてみるのが好適なのは、生徒が教室で行う「対話的な学び」の場合と同じです。
❏ それぞれ参観メモを起こして回し読み
最初に行う少人数での「意見交換」も、効率的に行うには多少の工夫が必要です。単に小グループに分けて「さあ、自由に話し合って下さい」で上手くいくとは限りません。(教室での生徒も同じですね。)
授業参観が終わったら、研究協議までの休み時間のうちに参観メモを起こしておいてもらい、その回し読みからスタートするのもお奨めです。
色々な学校からメンバーが集まる「合同研究授業」の場合、互いに知らないメンバーでは会話のきっかけも作りにくいもの。
参観メモに自分紹介(日々の授業で感じている課題や、取り組んできたこととその成果など)を添えてもらうと、それを起点にした会話がアイスブレイクの代わりになるかもしれません。
メモの回し読みは、順番に発言していくよりも短時間で済みますし、耳で聞いただけより意図を汲みながら読む余裕も持てる上、目でも確かめた分、記憶にも残り、その後の思考の材料にもなりやすいものです。
また、メモを起草する中で、参観からの気づきを整理し、考えたことを補足することもできるので、起草者本人も参観した授業からの学びが深くなるという効果も期待できます。
❏ 成否を決めるのは参観メモのフォーマット
参観メモも、思いつくまま自由に書いてもらう形式より、幾つか観点を挙げておき、それに沿って意見/考えを起こしてもらうのが好適です。
観察や考察に方向性がまったくない状態では、互いの気づきを交換しても、それらが組み合わさって新たなものを生む可能性は小さくなりますし、メモをもとに展開する議論もかみ合わないものになりがちです。
観点が設けられていれば、観察に焦点を持ちやすい上、考察するのも、それを整理してまとめるのもやりやすくなります。観点に沿ってそれぞれの記憶を辿れば、交換し得る知見の総量も膨らんでいきます。
研究テーマが決まっている場なら、参観メモの用紙には、テーマに即した所見を書く欄と、それ以外の気づきを起こす欄を分けるのが好適です。所定のテーマを外れたところでの気づきも、メモを介して交換できれば、参加者にとっての有為な学びになりえるはずです。
気づきをメモに書き出すにも、以下の3ステップを設けて、少し考察を深めてから言語化してもらうと互いに得るものが大きくなります。
- 本時の授業でとくによかった/効果的だと思えた工夫
- その工夫が学習にどのような効果をもたらし得るか
- 自分が担当する授業に採り入れるなら、どうアレンジしたいか
協議の冒頭で自己紹介を行うことが多いと思いますが、相手の所属校や教職経験などを聞いたところで、これから進めていく協議の土台となるところは何もわからないというのが、実際のところ。
これに対し、参観メモを介して知った「同じものを観る中で感じたこと/考えたこと」は、研究協議を進めていく上での参考になります。互いの取組に共感を覚えれば、協働に向けた意欲も高まります。
❏ 発表に備えてグループ討議の結果をまとめていく
参観者それぞれが起こしたメモを回し読みしたら、次は「全体協議(次稿で触れます)」に向けた準備としてのグループ協議です。
グループ内でのディスカッションだけでも十分に有為な知見が得られるでしょうが、各グループが考えたことを全体でシェアすれば、学びの総量はグンと大きなものになるのは言うまでもありません。
参観メモを回し読みする中では、書いた人に尋ねたいことや、読んで自ら考えたことが膨らんでいるはずです。それらを出し合い、膨らませていく中で、「グループとしての発表内容」をまとめていきましょう。
メモに書かれていたことを質問で掘り下げていけば、起草したご本人の考えがさらに深まったり、見落としに気づいたりすることで、より良い見方/考え方にブラッシュアップされていくはずです。
他の先生のメモに触発されて得た着想を交換すれば、メンバーの誰もが参観前に持たなかった考えや見方を得ることもあろうかと思います。
全体協議が始まれば、各グループの発表には時間の制限があるでしょうから、膨らんだ着想や授業改善の具体策にも、優先順位をつけて整理していく必要に迫られます。
その中で、これからの自分の授業をより良くしていくために拘るべき点も、より明確な輪郭を得ていくのではないでしょうか。
その2に続く。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一