卒業生を講師として招いて行う進路行事では、卒業生が今どのフェイズにいるかで伝えてもらいたいことが異なります。昨日の記事では、「難関大に合格したばかりの生徒」「大学で前期を過ごし、ひと通りを経験した卒業生」「専門課程に進んだ学生」 などに話して貰いたいことを思いつくまま並べてみました。
もう少し年代が進んだときに話してもらいたいこともありますし、講演タイプに加えて座談会形式やパネルディスカッションの形式をとることで、その行事に期待できる効果も違います。
❏ 教育実習生を集めてパネルディスカッション
4年生になると教育実習生として卒業生たちが母校に戻ってきます。
様々な大学・学部に所属するメンバーが揃いますので、その違いにフォーカスできる仕掛けにすれば、在校生により有意な情報を届けられそうです。
だれか一人を選んで話をさせても、大学という学びの場の多様性は伝えられませんので、できるだけ多くの実習生に登壇させるのが良いかと思います。
短時間を割り当て講演ではあまり掘り下げはできませんので、思い切ってパネルディスカッション形式にしても面白いかもしれません。それぞれが置かれた環境などの違いが浮き上がるはずです。
また、講演は短時間に抑え、「大学でどんなことを学んでいるか、何に取り組んできたか」 を伝えたのちに、座談会形式の分科会に分かれ、在校生は興味のある会に参加するというやり方もありました。
多様なメンバーが同時に集まるチャンスだからこそ、その利点を活かす運用方式を考えたいものです。
❏ 対話型・参加型の方が、在校生の気づきは大きい
進路講演後にとったアンケートを見ると、講演タイプよりも、対話要素を含む座談会形式やパネルディスカッションなどの方が、参加した在校生の気づきや学びが大きくなるようです。
アンケートの自由記述を読んで、進路行事が狙いとしていた気づきに言及している頻度を数えてみると、行事に対話的要素が多いほど、好適記述の出現頻度がぐんと上がり、ときに2倍に及ぶこともあります。
対話場面の多さが、在校生にとって訊きたいことを訊きやすい環境であるという側面もあろうかと思いますが、それだけではありません。
講演をする卒業生にとっても、後輩からの質問に触れて、より深く自分の記憶を掘り起こし、考えをまとめながら話をするようになることで、話に膨らみも深まりも生まれます。講演タイプにはない利点だと思います。
どうしても講演タイプにする必要があるときは、在校生に事前アンケートを取り、双方向の要素を採り入れ、疑似的にでも対話要素を作ることで、一定の効果は出てきます。
❏ 社会に出たばかりだから伝えられること
教育実習で卒業生が戻ってくるタイミングの次を探すとなると、今度は大学を卒業/大学院を修了して社会に出た20代半ばの先輩たちでしょうか。
就活の体験や学生と社会人の違いなど、それまでの経験を話してもらうとしたら、そのときの印象がまだ強く残っているこの世代でしょう。
大学に入ってからの過ごし方や、スムーズな始動に必要なことを、自身の反省などを踏まえて話してくれるかもしれません。
この世代ならば、先生方の定期異動がある公立高校でも、面識のある先生が残っているはずなので、直接声を掛けることもできます。
❏ 大学で学ぶことの意義を話せるのは30代以降
しかしながら、入社間もなくから大学で身につけた専門性を活かすポジションに就くのはレアケース。大学での学びの意味を自分の経験の中に求めて、後輩に伝えるのはやや荷が勝ちそうです。
中堅社会人となり、様々な専門性を身につけてきた30代以降の話も聞かせたいところです。
この世代の卒業生の話は、現場サイドから社会を見るには絶好の機会。普段の指導に当たっておられる先生方にとっても、今後の生徒指導/進路指導の参考になりそうです。
>このシリーズのインデックス「先輩の経験から間接的に学ぶ機会」へ
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一