指導と評価の一体化~実現のための発想転換(後編)

前編では、「指導と評価の一体化」を図るには「授業のデザイン/指導計画だけを先行して考え、実践し、評価はその場に臨んでから考える」という従来からの発想を離れる必要があるとお伝えしました。
各単元(あるいは内容のまとまり)で獲得を図った能力や資質を評価するために課題や活動を整えているなら、それらを指導時間の枠に収めて適切に配列することで、指導計画のフレームは出来上がります。
評価のために設ける「能力や資質を発揮させる機会」は、同時にそれらを鍛える機会にもなります。鍛えながら評価する/評価しながら鍛えるという着想は、限られた授業時間を有効に使う上でも欠かせません。
本稿では、前編で触れなかったところ(第3要素の取り扱い、評価を行う「目的」)について現状で考えるところを文字に起こしてみました。

❏ 第三要素「学びに向かう力・人間性」もきちんと評価

学力の第三要素は「学びに向かう力」と「人間性」ですが、これらの評価をどうするかが悩みのタネとのお声も少なからず耳にします。
後半の「人間性」は、感性や思いやりといったものを対象にするため、「個人内評価」に止め、観点別学習状況の評価には含まず、評定にも算入しません。一人ひとりの良い点や可能性を観察を通じて見取りつつ、進捗の状況(成長)を積極的に評価し、本人に伝えていくだけです。
とは言え、評価の基準を(少なくとも先生方の内には)確立し、生徒に伝えるときにも一定の客観性と合理性を担保する必要があります。
観点別の評価を行って、評定にも組み込むのは前者の「学びに向かう姿勢」ですが、これは課題に取り組ませ、その成果と過程を振り返る中で向上を図り、評価するべきもの。
下図は、国立教育政策研究所による参考資料からの引用転載です。(本稿を起こすに当たり、一部の表現を変更してあります。)
言わんとしているのは、2つの要素「粘り強く取り組む姿勢」と「自らの学びを調整しようとする姿勢」を横軸と縦軸に配した座表面に個々の生徒の現状をプロットし、相対位置で評価を決定するということ。


評価に際しては、自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているかという「意識的な側面」に焦点を置くこととされており、必ずしも「学習の調整が適切に行われること」は求めません。不足は指導で支援します。
なお、「自らの学習を調整」とは、より良いパフォーマンスを得るために何をどう学ぶかを考え、実行すること。21世紀型能力では、「メタ認知・適応的学習力」がこれに当たり、思考力の一部を構成します。

❏ 学びに向かう力を評価するときに備えたい着想

別稿でも書きましたが、日々の教科学習指導の中では、以下の2点にも十分な意識を向けて観察を行い、その記録を残していくことを心掛けましょう。(cf. 各教科で評価すべきは、主体的に学習に取り組む態度

  • 様々な課題や活動に取り組む中で、より良い学び方を身に付けようと努力しているか(学習方策の獲得/学習行動の改善が進んでいるか)
  • 振り返りで「次の機会での自分の目標」を設定しているか(日々の学習に目的意識/学ぶことへの自分の理由を見出しているか)

記録に照らして「初期状態からの変化量」を捉えなければ、「成長」を可視化できませんし、評価結果を説明するときも、記録こそがその根拠になります。(cf. どこにスケールを当てて学びの成果を測るか
また、これらについては、先生方の目による観察/評価を行うだけでなく、生徒の自己認識もアンケートなどで質しておきたいところです。
実際にはできているのに、「できていない」と思い込んでいる生徒もいるでしょうし、逆もまた然りです。学びの主体たる生徒が、自身の学びを肯定的に捉えていないと、学びは消極的なものになりがちです。
なお、評価基準(その日の学習活動とマッチした観点を備えるもの)は生徒に示し、それに照らした自己評価にも取り組ませましょう。
先生の見立て[評価結果]と一致する(=自己評価を正しく行える)ようになるにつれて、学習者としての成長も加速します。

❏ 評価を行うのは、学習と指導の改善を図るため

評価を行うことの目的は、以前なら「成績をつけること」だったかもしれませんが、現在では「生徒の学習の改善を図ること」と「指導の効果を確かめ、その改善を図ること」に切り替わっています。
この「根本的な変化」を押さえないと、根っこのところで間違えます。
学習者に対して今後の道筋を示し、学習改善を図ろうとするなら、学期末や学年末といった「事後」の評価だけでは不十分なのは明らか。評価後にリトライの機会がなくては、目標の未達成はそのままです。
最小限、各単元などの「内容のまとまり」ごとに行うのは当然として、その途中でも逐次行って、その後の学びの改善を図りましょう。
生徒が積み上げた学びの成果や、そこでの取り組みは、先生方の指導が影響してのもの。学力要素のいずれかに伸びの不足があれば、見直すべきは先生方の「学ばせ方」(指導計画/授業デザイン)です。
新しい学力観に沿ったテスト、評価すべきことがらをきちんとカバーしたルーブリック、さらには学習者の意識を質すアンケートなど、多様な評価ツールを適切に組み合わせて評価を重ねることが求められます。
また、評価結果を利用して、校内/教科内の優れた実践を探し出し、そこでの工夫や取り組みを共有することも怠らないようにしましょう。

先生方が重ねる工夫の中には「より良い授業への発想と知見」も数多く生まれますが、効果を得なかった試行もあるはずです。きちんと成果の検証を行い、効果が確かなものだけを残し、さらなる改善の土台にしていきましょう。生徒を巻き込んだ「やりっぱなし」は避けるべきです。

新しい学力観に基づく評価方法(記事まとめ)



国立教育政策研究所から『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』(小中高の各教科)が刊行されたのは、小中が令和2年、高校が令和3年のこと。既にご覧になられていると思います。

どの教科もかなりのボリュームの冊子で、読み始めようと思うとちょっと気後れするかもしれませんが、一度はしっかり目を通しておきたいところ。飛ばし読みでもざっと目を通しておけば、日々の実践で困ったときに、ヒントを求めて該当ページを開くことが容易になるはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一