振り返りはプロセスを分解して~失敗から正しく学ぶ

何かの問題を解いたとき、あるいは何かのタスクに挑んだときに、できた/できなかったという結果にだけ注目しているのでは、どこに間違いがあって成功しなかったか、原因への認識はあいまいになります。
失敗の原因を見誤らず、同じ轍を踏まないためには、結果に至るプロセスをステップに分解した上で、振り返りを行うことが肝要です。
成功も失敗も、振り返ってこそ、その先に生きる「智恵」になります。進捗と改善課題を捉えた学びの実現にも、結果以上にプロセスに着目させ、個々のステップを正しく踏めたかに意識を向けさせるべきです。

❏ 解に至る工程は、複数のステップで構成される

どんな問いや課題も、答えや結論に至るまでの工程は、幾つかのステップで構成されるもの。単一ステップで完結するのは単純な計算問題や、知識の有無を試す「記憶テスト」くらいのものでしょう。
そうした単一ステップのものであれば、わざわざ振り返ってみるまでもなく、正解できなかった原因は明らか。対策は「(もっと)ちゃんと練習する/覚える」くらいのものでしょう。
しかし、ある程度以上の思考を求める問題では、最終的な結果(正誤)を分ける原因は様々。自分の答案(誤答)を模範解答で上書きする「間違い直し」だけでは、自分の思考プロセスのどこに間違いが生じたかへの意識は不足し、失敗からの学びは中々進みません。

数学の問題を解く場合、題意を理解し、図に起こし、立式して計算を進めるという流れに、条件分岐なども加わり、正解への工程が構成されますが、どこで間違いが生じたかで、次に向けた改善課題も異なります。
立式後の計算におけるケアレスミスと、題意を取り損ねたり、図に起こせなかったりした場合では、正解できなかったという事実は同じでも、次の機会での成功のために行う/学ぶべきことはまったく違うはず。
設問条件に書いてあることを部分的に読み飛ばして、題意を誤っていたとしたら、どこを読み飛ばしたかを明らかにして、次に同様の問題に出会ったときに注意をしっかり向けられるようにすべきでしょう。
図に起こすところで躓いた場合も、相応の対策が必要。模範解答通りの図を覚えるのでは、同じ問題以外で応用が利きません。模範解答が、どこからどんな順序で描画を進めているか観察し、自分の思考に欠けていたところを特定できれば、対応できる問いの範囲も広がります。

他教科でも、問題文に書かれていることを分解して、そこから必要な情報を拾い上げ、答えに求められる形に構成し直すという一連の工程に沿って答案を作りますが、各ステップに間違いが起こり得ます。
何を答案に組み込むかの要否判断で、根拠とすべき設問条件を読み違えていたり、自分の書き方が読み手に誤解を与える可能性を見落としたりと、減点要因は様々なはず。
理科の実験や、家庭科での実習などでも、狙った通りの結果が得られなかったときに、要因特定の思考がどこまでできたかが、次の機会での学びを変えます。

どこに不具合があり、どう対処(改善)すべきか、生徒自身に考えることを求めないと、その力は育めません。あらゆる科目で求めることで、メタ認知・適応型能力を、より対象の広いものに昇華させましょう。

❏ まずは、思考のプロセスを分解する着想を持たせる

テストの結果を生徒に振り返らせても、こうした「プロセスの分解」に着想が及んでいないと、効率的な「学習の改善」は進まなくなります。
振り返りは、自己調整学習の入り口。機能させるには、プロセスを分解させて、振り返りの解像度を高めていく必要があるはずです。
中には、「できなかったのは、解法をちゃんと覚えていなかったから」くらいしか思い浮かばない生徒もいるかと思います。解法を覚えれば正解できるのは、既に学んだ問題だけ。解法が未確定の問題は言うに及ばず、初見の問題にはお手上げという事態も考えられそうです。
できていたところと、できなかったところをしっかり切り分けて、後者の原因とその解消策を考えていく中にこそ、失敗から学び、同じ失敗を繰り返さない、パフォーマンスの継続的向上が見込めます。
考査や模試の結果を返却するときに「振り返り」を求めても、こうしたところまで意識が及んでいなければ、「努力が足りなかった、次はもっと頑張る」といった、具体性を欠く反省コメントしか出てきません。
成績が振るわなかったのは、どこで失点が多かったのか捉えた上で、類型化させ、それぞれに有効と思われる対策を考えさせましょう。
先生が先回りして、原因の指摘と対策の提示をしては、生徒が「自らの学びを振り返る力」を獲得する機会を奪われていることになります。

まずは生徒に考え尽くさせた上で、その結果を文字に起こさせてみましょう。それに目を通してみると、見落とし(着想の欠落)や勘違い(考え方の誤り)があるかもしれません。そこにツッコミを入れて(=問い掛けて)、着想や考えを改めさせていくのが先生方のお仕事です。

❏ 原因が特定できれば、対策はほどなく見つかるはず?

解に至るプロセスのどこに失敗の要因があったかわかったとしても、その要因を取り除くのに好適な方法を思いつけるとは限りません。
失敗を繰り返さないために必要なことを、的確に選び出すには、それが「手札」の中にあることが先決。しかしながら、実際には手札に持っていなかったからこそ、それを選べず失敗という結果になったわけです。
となれば、それまで知らなかった方法も含めて、対処のための方策を改めて学ぶ必要が出てきます。授業開きなどで先生方が伝えていたことに立ち戻ったり、周囲の生徒がやっている方法を見て参考にしたりするのは、発想を押し広げていくのに欠かせないことだと思います。
指導に当たる先生方の優先課題は、「学び方」を新たに学ぼうとしている生徒に、その機会を提供すること。助言を与えるだけでなく、考査や模試の振り返りで生徒が残したリフレクション・ログから好適な記述を抽出し、クラスでシェアすることなども有効な支援になるはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一