模擬試験の成績や授業評価アンケートのデータを見ていると、2年生のときの大きな低下(あるいは停滞)を3年生の前半で大きく巻き返したと思ったのに、夏を越えて受験期を迎えた途端にパタッと伸び足が止まってしまうことがあります。(cf. 年度の後半で授業評価が下がる?)
そうした問題が顕在化してからの対処では、十分な効果が得られないことも多く、有効な予防策が打てるかが問われるところです。また、夏を過ぎてからの指導の中で観察を重ねていくと、前年度の指導に起因する学習指導上の課題が見えてくることも少なくありません。それらを把握し、次年度の指導計画づくりにも反映させていきましょう。
2020/01/28 公開の記事をアップデートしました。
❏ 既習内容の理解の浅さが、総合演習の中で露呈する
3年生の前半、特に序盤というのは、最上級生になった/いよいよ受験学年だという意識がありますので、新たに学ぶ単元に意欲的に取り組む生徒が多いはずです。選択して履修した科目であるがゆえに学びに対する自己効力感の高さも、それに拍車をかけます。
その結果、新たに学ぶことを一つひとつ積み上げている感覚が得られ、授業を受ける中で「学力の伸長」を自覚する瞬間も多いと思います。
しかしながら、2年生までの授業で学んだことの理解が表層に止まっていたり定着が不十分だったりすると、不安定な土台の上に新たな理解を構築していることになりますので、どこかで綻びが生じます。
新たな単元を順に学んでいくときは、導入フェイズで前提知識の確認がなされることもあり、その場でしっかり取り組みさえすれば、明らかな不明を残さずに勉強を進められますが、総合演習に入って「実は足元の石がぐらついていた」ことに気づくことが少なくありません。
単元を限定しない総合的な演習に入ったり、融合問題に取り組むことが増えたりすれば、「前提理解の確認」は手薄にならざるを得ませんが、既習内容をより広範に、且つ組み合わせて活用するとなると深く確かな理解が不可欠。浅い、表層的な理解が通用しなくなるのは当然です。
それまで順調だったのに「転ぶ機会」が増えると、それまでの学びを支えていた科目への自己効力感がぐらつき、勉強の調子も落ちがちです。
❏ 新単元に進む前の、既習内容の理解点検&再構築
冒頭で書いた通り、こうした事態は「2年時に低下や停滞が見られた学年」で頻発します。2年時の学習が十分な成果を得ていない以上、新たな学びを積み上げるべき土台の不安定さは想定しておくべきでしょう。
かといって、既習内容の復習ばかりしていたら、教科書を先に進められませんし、生徒も退屈するか焦り始めるかのどちらかでしょう。
単元を進めるのと並行して、関連の既習単元の理解を確かめる問いやテストを重ねることで、学びの土台を固めていく必要があります。
既習内容をきちんと理解していれば答えられる問題を用意し、新単元に入る前に解かせましょう。解けない問題を前に、教科書やノートで復習したり、周りに訊いたりすることで、欠けていた理解は補えます。
すぐに正解を配ってしまうと、それ見てわかった気になり、学びが固まらないこともあります。先ずはじっくり考え、調べ、それでも手に負えないなら周りに訊く。そうしたステップを踏ませることが大切です。
本格的な受験期を迎えると学びは個別化し、生徒が自力で知識を拡充し、不明を解消する場面が増えます。それに備える練習も必要です。
単元進行を急ぎたいときに、既習内容の問いやテスト(+正解を得るまでの学び)に授業時間を割くのは厳しいとお感じになるかもしれませんが、土台が不安定なことに気づかないまま先に進み、後で「大修繕」が必要になることを考えれば、効率的な投資ではないでしょうか。
❏ 自ら学ぶための方法や姿勢の獲得が遅れているなら
既習内容の理解が表層に止まっていたというのは、先生に教わったことを覚えることだけに偏った学び方をしていた可能性があります。
自力で問いに答えを導き、課題を解決する工程を経験しないと、答えに至る工程を描き出す力も付きませんし、読んで理解する、必要な情報を集めて知に編む、体験を学びに構成する力も獲得が進まないはず。
この状態のまま最上級生になったとしたら、どれだけ真面目に/意欲的に学習に取り組んだとしても、教わったことを覚えて、答案上に再現するところがせいぜい。「定期考査限定学力」では、大学入試で課される思考力を試す問題、単元融合問題などには歯が立ちません。
過去問演習や模試受験のたびに返り討ちに合うことが繰り返されては、自信も失えば、伸びている実感にも欠くことにもなります。
最上級学年に進級する前に、PBL的な学びを経験させるなど、解法を考え、学習方策を獲得するトレーニングを十分に積ませられるかが問われます。cf. 次のステージ(進級後の学び)への準備は整っているか
しかし、3年生に進級した後で、そうした「学び方の不備」が露見しても、ただ嘆いているわけにはいきません。頭を切り替え、改めてそうしたトレーニングの機会を日々の学びの中に設けるしかありません。
生徒の理解が及んでいないところで、丁寧に説明したり、正解ありきの逆算的アプローチで納得させて先に進むのでは、その場を取り繕っている(絆創膏を貼っている)だけで、本質的な解決は遠のくばかりです。
教科書の記述や、問題集の解説などは、生徒自身にきちんと読ませ、そこで理解したことを言語化させる(ペア活動)といったことを徹底すると同時に、学びを振り返る機会をしっかり設けて、「進捗と改善課題を捉えた学び」の実現を図りましょう。
本来ならば、こうした指導は、受験期を迎える前に一定の成果が出るところまで進めておくべきことですが、たとえ後手を踏んでも、巻き返しをあきらめないようにしましょう。そこで生徒が得るのは、卒業後の学びを支える土台、「生きる力の根幹」だと思います。
❏ 演習量を増やす中で、個々の学びの目的が希薄に
受験期を迎えて「伸びている実感」を欠くようになる原因には、授業毎の「目標」が曖昧になっていくという事情もあろうかと思います。
単元を一つひとつ進めていくときは、本時の目標/単元の目標が明確(なはず)ですが、演習期にはいって問題を解くことに主眼が映ると、何題解いた、どれだけ解けたが意識の真ん中を占めるようになり、明確な到達目標がイメージされない/しにくいことが増えます。
到達目標は、達成検証や振り返りの基準であり、前者が曖昧になれば、自ずと後者もぼんやりしたものにならざるを得ません。
問題を解くごとに(とりわけ、解けなかったとき)にきちんと振り返りをすることも可能ですが、多くは「正解を確認したら次に進む」の繰り返し。進捗と改善課題を捉えた学び、学習の改善は意識から外れます。
達成感や課題意識の希薄化が、伸びている実感を弱めるならば、受験期を迎えた時こそ、しっかりと振り返りを行わせることが大事です。
受験期本番を迎えたと言えど、学習者としては発展途上。常に自分の学びを振り返り、次に向けた課題を形成する必要があります。できるようになるまで繰り返すという反復方策は、成績の伸長に一定の貢献をしますが、メタ認知・適応的学習力の獲得には効果薄でしょう。
2学期の期末を過ぎれば、生徒は自力で勉強を進めます。学びはまさに「個別化」します。自ら課題を設定し、計画的に取り組める方法と姿勢を獲得しているかどうかで、最後の伸びも雲泥の差でしょう。夏を過ぎ、秋が深まる中で、そうした力をどこまで育めるかが勝負です。
❏ 成功パターンの継続が学びにブレーキを掛けることも
1学期の指導が十分な効果を得ていると、そのやり方をそのまま続けることになりがちですが、これも後半の伸びを欠く原因になり得ます。
夏を迎える前と、夏を挟んだ後では、生徒は学習者としてのステージも違っているでしょうし、カリキュラムの中での毎時の授業の位置づけも違ってきていることもあります。その中で「同じことを続ける」のはミスマッチを生むリスクを抱えないでしょうか。
夏までに生徒ができるようになったことを土台に、2学期の指導目標に照らして、そこでの学びを改めてデザインする必要があるはずです。できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしないことが大切です。
クラス全体を対象にした授業を進めるのも、個々の生徒の進路希望が具体化してくると、必ずしも効率的とは言えない場面が増えてきます。
志望類型ごとに課題を選んでおき、答え合わせや解法協議は、同じ課題を与えた生徒のグループで行わせるのもアリかと。そこでは、生徒のやり取りを観察し、最適なタイミングで助言を与えたり、思考や協議の停滞を打破する問いを投げ掛けたりすることがお仕事です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一