情報を整理・構造化する方法は、先人たちによって様々なものが生み出されてきました。それらを活用する場面は、日々の教室にも豊富です。
インデントや段落記号で階層性を表現したり、表組でものごとの対応性を捉えさせたりする板書に加え、教材のページには、フローチャート、ベン図、概念地図といった多様なダイヤグラムが方々に登場します。
これらについて考え方を身につけておけば、複雑な情報を整理したり、整理した結果を他者に伝えたりするのに重宝なだけでなく、整理された状態が問題の切り分けを容易にするため、判断も誤りにくくなります。
2020/09/07 公開の記事をアップデートしました。
如上の表現手法は、単なるプレゼンテーションの技術ではなく、思考力や判断力を底上げするためのツールでもあります。話し合いなどの場でファシリテーションに活用すれば、対話と協働はより建設的で効率的になります。cf. 生徒にも学ばせたいファシリテーション・グラフィック
こう考えると、情報整理・構造化の手法は、生徒にある程度の知識を持たせ、使いこなせるようにさせるべきものという結論になるはずです。
わざわざ特別な機会を設けて指導する必要はありません。先生方が日々の教室で行っている板書をお手本に、その機能とやり方にちょっと意識を向けさせることで、学ばせていくことができるはずです。
❏ 頻繁に目にしていても、意識を向けないと学べない
単純に並列されるものなら箇条書きで列挙すればOKですが、項目間に階層性がある場合はインデント(字下げ)を用いたり、アウトラインの記号タイプを変えたりする必要がありますよね。
西洋と東洋、戦前と戦後のように二項の対立に着目する必要がある場合は、「表組」にするなどカラム(列)を分けて、それぞれの記述を対比的に表示するのが効果的だったりします。
共通項の存在を示したいときはベン図、内包関係の有無を強調したいときはオイラー図といった具合に、数学で集合を学ぶときのツールを他の教科の先生も(さして意識しないまま)使っているものです。
こうした、情報の整理・構造化の手法は、教科書や副教材にもいたるところに登場していますが、生徒の意識は整理された情報(結果)の方に向くばかりで、情報を構造化する手法そのものに注意を向けることはあまり多くないのではないでしょうか。
頻繁に目にしているものでも、ある程度の意識をもって観察しないと、そこから学べるものは増えてこないということです。
どんなタイプの情報には、どんな表現形式を用いるのが効果的か、どんな着眼点と手順で考えていけばその表現の選択に至るのか、生徒に改めて聞いてみても、はっきりした答えが返ってこないようなら、日々目にしているものに注意が向かず、学んでくれていないということです。
❏ 情報を整理する手札に焦点を当てて学ばせているか
自分が集めた情報に整理をつけようとするにも、様々な手札(表現形式)を備えていれば、効果的に目的を達することができるはずです。
また、整理した結果を周囲の人々に示して理解と共感を得ようとするにも、無策に熱意だけを頼りに伝えるのと、多くの手札から最も効果的なものを選んで駆使した場合とでは成果に大きな違いがありそうです。
情報を整理して構造化する方法をどこかで学ぶ必要がある/少なくとも学んだ方が良いのは明らかだと思いますが、実際は、十分な意識を向けて生徒が学ぶ機会をしっかり整えているかという問いに、自信をもってYESと答えられるケースは多くないようにも感じています。
教科・科目ごとに多様な内容を学ぶ中で、そこで用いられている情報整理/構造化を目的に用いられている表現手法も多岐に亘ります。各教科の学習の中で、それらに出会うたびに、ちょっと意識を向けさせる一言や問いがあるだけで、生徒が身につけるものはグンと増えそうです。
探究活動の成果発表会などでは、生徒が作ったレポートやポスターに、それまでの日々の学びの成果が表れているかもしれません。そこで使われている表現手法にどのくらいバリエーションがあるか、適切な選択で効果的なプレゼンができているかは、しっかり観察すべきです。
❏ お手本を見せつつ学ばせ、実際にやらせてみる
教科書や副教材を生徒にしっかり読ませながら、書かれていることから必要な情報を取り出しつつ、拾い上げた情報をレイアウトしていく場面はどの教科・科目でも日々の授業にその機会を持てるはずです。
整理済みの結果だけに注意を向けさせ、単元の学習内容を学んでくれればOKという指導のスタンスでは、情報整理の方法を生徒が学ぶ機会は作れません。整理の工程を職員室のデスクで完了させておき、教室ではそれを示すだけというのでは、プロセスはブラックボックスの中です。
情報整理・構造化の手法は、情報をデザインする力であり、21世紀型能力では、言語、数量とともに基礎力の構成要素である「情報スキル」に含まれます。各単元の内容を学ぶ中で着実に獲得を図らせましょう。
学習範囲に登場する情報がどのような構造を持ち、互いに関連しているかを問い掛けて気づかせ、各々のタイプに応じた「整理のフレーム」にパーツ(=拾い出した情報)を一つひとつ配置していけば、生徒は情報が整理されていく工程を目にし、学ぶチャンスを得ることになります。
ときには、各ダイアグラムの名称や主だった利用場面などを「知識」として提示するのも、それらが先人の作り出した知的ツールであり、活用すべき知の一つであることを気づかせるのに有用です。
こうした体験を一定程度まで積んだら、今度は「ここに書かれていることを紙面に整理してごらん」とタスクを与え、生徒自身にトライさせてみれば、生徒が実地に経験してやり方を学ぶ実習の機会になります。
授業内でそうした「実習」に割く時間は取れないかもしれませんが、単元を学び終えたところで「宿題」としてみるのは如何でしょうか。
例えば英語で文法を学ぶときでも、比較構文を学んだあとで「比較について学んだことをA4用紙1枚にまとめてみよう」というタスクがあり得ます。先生が1から10まで教えて完成形を黒板で示し、生徒はそれを写すだけというのより、よほど深い学びが実現すると思います。
生徒の「作品」(まとめ上げたプレゼンシート)に目を通し、特に優れたものをピックアップしてクラス全体でシェアするようにすれば、他の生徒にとっては、次の同様の機会にむけた「好適な手本と刺激」になるのではないでしょうか。
資料集などの副教材にも、扱う情報が持つ構造によって様々な形式を使って「整理された結果」が示されていますが、生徒の意識は結果の方だけに向くのが普通。単元内容を学びながら、情報を集めて新たな知に編む方法(=学ぶ方法)も同時に学んでいるとは限りません。
科学の進歩や社会の変化で、新たな知がどんどん生まれ、「今の知識」はいずれ更新されることを考えると、眼前にした未整理の情報を整理・構造化していく姿勢と方法を身につけることこそ、これからの時代を生きて行くために必要なことだと思います。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一