生徒に期待する行動をはっきり示す

学年や学期が進むごとに、生活、学習、進路の各領域で生徒にどんな行動を期待しているのか明確に示すことは、段階的に目指すべき到達状態について生徒と認識を共有することを意味します。目標とするところが示されてこそ、その実現に向けた努力も促されますし、振り返りを通じて、今の自分に足りないものに気づき、自らの行動を改めて行けます。
担任の先生が「期待する行動」をしっかり示せているクラスと、不十分なクラスとでは、個々の生徒の行動や、クラスの集団としての在り方に大きな違いが生まれるのは、下図のデータに読み取れる通りです。


2015/06/08 公開の記事を再アップデートしました。

生徒意識アンケート② 期待する行動の打ち出し
担任の先生が生徒にどんな行動を期待しているか、はっきり理解できる

学年団で目線を揃えた上で(各教科担当の先生とも共有すべき)、機会あるごとにメッセージを発信し続けることで、クラスの生徒すべてがこの質問にYESと答えられる状況を作り出していきましょう。
別項でも書いた通り、教育目標や指導方針をちゃんと伝えることの重要性は、学校評価アンケートの解析結果などでも確認されています。

❏ 期待する行動=現段階での目指すべき到達状態

“生徒に期待する行動”とは、今の段階で/少し先に進んだときに、生徒に取れるようになってもらいたい思考や行動様式のことです。
授業における学習目標と同じく、生徒としっかり共有しておくことが、個々の指導に込めた意図をより良く理解させ、指導の効果も高めます。
目標を明確に示すからこそ、生徒の努力に方向を与えることができますし、達成検証や振り返りも可能になります。
期待する行動として先生が示したものと、自分の現状とを照らし合わせることで、どう変わって行くべきかイメージできるということです。
言うまでもありませんが「期待」をその場で考えているようでは、領域×時期ごとの目標が恣意的になり、配列にに不整合も生まれてきます。
指導計画を立てるのに際し、3ヵ年/6ヵ年を通した、生活・学習・進路の各領域における段階的な成長を描き出しておくことが重要です。

❏ メッセージは時間の経過とともに揮発するもの

新年度の始まりにオリエンテーションなどを通じて、「君たちにはこうあってほしい」と伝えたとしても、そのメッセージは1ヵ月後、3ヵ月後にも揮発せず、生徒の内に残っているでしょうか。
伝えたメッセージは、その後の様々な経験の記憶に上書きされていき、時間の経過とともに意識の中から消え去ってしまいがちです。
ことあるごとに発信を繰り返し、再記銘を図りましょう。様々な指導機会に表現を変えながら同じメッセージを伝えることで「期待する行動」へのより深い理解を作ることが大切です。
各時期に目指すべき領域ごとの到達状態を「生徒を主語とするセンテンス」の形で書き出しておけば、定期的に取り出させて、振り返り/自己点検をさせることもできます。
如上の到達状態/評価規準をベースに、アンケート様式に仕立て直して生徒に回答させれば、先生が口を酸っぱくして伝えるだけよりも生徒の意識に上らせやすくなります。
アンケートの回答分布を継続的に把握し、記録していけば、一定期間を経て生じた分布の差から当該時期における指導の成果も測定できます。

❏ 背景の理由を考えながら、行動選択の土台を作る

期待する行動を先生方が示すだけでなく、そうした行動を取れるようになることが生徒の側にどんなメリットをもたらすか、なぜ必要なのかを生徒自身に考えさせて、気づかせていくことも重要です。
ルールだから従えと言われて、素直に/考えなしに「仰せのままに…」と答える生徒を育てることを目指しているわけではないはずです。
目の前に次々と現れる出来事に対して、「どのような行動が自分と周囲の利益を最大化するのか」を判断できるようになることと、「期待される行動」に盲従する姿勢を学習させることは全くの別物です。
生活指導の場面における「ルールでの保護と危険回避の思考力養成」と同様の発想は、あらゆる指導場面で必要なものだと思います。
先生の期待に応えることを旨とするのではなく、期待の背景を理解し、自分で行動を選択できるようになることが目指すべきゴールであることを、最上位にある「期待」としてしっかり伝えて行きましょう。

❏ ひとつの期待が満たされたら次のハードルを示す

メッセージは繰り返し伝える必要がある一方、期待した行動を生徒がしっかりと取れるようになってきたら、同じところに立ち止まらず、期待をもう一つ高いところに置き、新たなハードルに挑ませましょう。
すでに逆上がりができるようになっている生徒に、逆上がりの練習を繰り返させても、新たにできるようになることは増えていきません。
卒業までに出来るようになって欲しい行動を「ゴール」としてしっかりイメージし、そのゴールと現状でできるようになっていることを結んだ直線上に「次に期待する行動」を描き出すことが大切です。
これを実現するには、

の双方を、常に念頭におく必要があることは言うまでもありません。
現況の把握を先行しないことには、達成可能な目標を設定することはできませんし、卒業までにどんなゴールを目指すのかを忘れては、一貫した方針の下での継続的・段階的な指導はできなくなります。

❏ 学年団(+教科担当者/部活顧問)で目線合わせ

当然ながら、先生ごとに言うことがバラバラでは生徒も戸惑うばかりです。期待する行動を「生徒一人ひとりを主語としたセンテンス」に書き出すことで、学年団での目線合わせをしっかり行うようにしましょう。
目線を合わせ、共有した「目標」(=期待する行動の実現)の達成に、先生方がそれぞれ最善と思う方法で取り組んでいけば、指導期間を経て生じた差分(=指導の効果)で優れた実践の所在も探せるはず。それを共有し、先生方の協働で更なるブラッシュアップを図りましょう。
学年で取り組んでいることは、授業を担当する各教科の先生方や、部活顧問の先生方にも、しっかり伝えておくようにしましょう。
生徒と長い時間を過ごす、各教科の授業担当者や各部活の顧問やコーチに、学年の方針を十分に理解してもらい、それに沿った「指導」と「観察」をお願いしておけば、方針のバラツキを抑えるのみならず、指導に相乗効果が見込めますし、観察の見落しても減らせます。

授業のこと以外にも尋ねておくべき“生徒の意識”
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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