年間行事予定の起草は、単にカレンダーを諸行事で埋めていくことではありません。領域ごとの段階的な到達目標が正しく配列されているか、その目標群を達成するのに必要な指導の機会が過不足なく用意できているかを確認しながら、教育リソースの最適配分を実現すべく調整を重ねることだと思います。
選択の場としての行事であれば、そこに至る準備が十分に行えるだけの期間とプロセスが用意されている必要があります。
体験や学びの場としての行事であれば、それ自体の目的が合理的で明確なものである必要に加えて、それらを達成するのに必要なレディネスを整える事前指導と、学びを深く確かなものにする振り返りの指導とが、行事の前後にきちんとセットされていなければなりません。
如上の点検と調整を行うには、領域✕段階ごとの到達目標が3年間/6年間の流れの中で合理的に配列され、その一つひとつが検証可能な(=評価規準になり得る)表現を与えられていることが大前提です。
2016/03/10 公開の記事を再アップデートしました。
❏ ひとつの行事は次に控える別の行事の伏線
年間行事予定の完成度を継続的に高めていくには、「予定表の紙面から学校が教育目的とするものがはっきり読み取れるかどうか」という視点に照らしての点検が欠かせません。
これは、シラバスの起草・更新に際しても同様です。
ある行事の目的を達すると次のステージに進むレディネスが整う、別の言い方をすると、ある指導は別のある指導の伏線となっているという関連性が、予定表からしっかり読み取れるようであればOKです。
眼前の行事が何を目指す機会なのかしっかり伝われば、それぞれに行事に臨む生徒の姿勢も違ったものになるはずです。目的とするところを言語化してみることは、指導に当たる先生方にとっても日々の指導に目的意識を新たにする好機です。
❏ まずは、既存の年間行事予定を見直してみましょう
一般に、行事は新しく加えられる方が、廃止されるものより多いように見受けられますが、これでは年間の予定は窮屈になるばかりです。
こうした「増築、改築」を繰り返しているうちに、個々の行事をつなぐべき「関連性」が曖昧になったり、見失われているかもしれません。
行事が初めて起案されたときには、何らかの明確な意図があったはずですが、時間の経過と人の入れ替わりの中で、「生活」「学習」「進路」の3領域における到達目標から離れ、行事が自己目的化してしまっている可能性も疑ってみる必要がありそうです。
既存の年間行事予定をもう一度しっかりと見直して、行事や指導機会の一つひとつに込められている/いたはずの意図を、改めてはっきりとさせるべきだと思いますし、その機会は新年度を迎える時期ぐらいにしかないはずです。
❏ 既存の行事予定から「目指していたもの」を抽出
既存の年間行事予定を拡大コピー(A0コピー機があれば簡単ですが、無ければタイル印刷で模造紙大に出力)してテーブルの上に広げ、その周りに先生方に集まってもらえば準備はOK。(ただし、3学年の行事が混在しているようなら、まずは学年ごとに切り分け、1年1学期から3年3学期まで「連続」して表示する様式に変更しておきましょう。)
準備ができたら、それぞれの行事に対して、
- 本来は何を目的に設けられていた行事か
- 行事を経験して生徒にどんな成長・変化があったか
- 成果においてもの足りないものは何か
などを、思いつくまま付箋に書き出して貼り込んでいきます。後での整理に備えて、付箋には「どの行事について書いたものか」を添え書きしておくこともお忘れなく。
この作業を進めていくと、他の先生が貼り出した付箋を見ながら、見落としていたことに気づき、また付箋が増えてくるはずです。
ちなみに、付箋は何色か用意しておき、上の3つに加え、「その他」にそれぞれを割り当ると、あとの整理がつけやすいと思います。
❏ 書き出してみることで、足りなかったものが見つかる
こうして付箋に書き出していくと、「目的」と「成果」が曖昧なままになっていた行事も見つかるはずです。
また、行事どうしのつながりが希薄であったり、レディネスが不十分なまま行事に臨ませていたりするケースもどんどん露わになってきます。
ある学校では、文化祭や合唱祭などの大きな行事が、3領域で目指している成果/目標とがまったくと言っていいほど関連付けられていないケースもありました。
これらの行事には「祭」の字が含まれますが、地域の懇親や連携を目的にした自治会の夏祭りとは目的が違いますよね。集団達成の場、協働性を高める場などに位置付けられるものだと思うのですが…。
前年度まで継続して行われてきた学校行事には、伝統や教訓が何らかの形で込められています。それを改めて掘り起こし、先生方の間で共通理解とすることもまた、ここでの作業が目指しているものです。
❏ 抽出が終わったら、並べ直してみて構造化
付箋に書き出す作業が終わったら、付箋を個々の行事から分離しての整理です。模造紙の上に貼り付けられている付箋には、
「(行事を通じて)目指すべきもの」
「(これまでの行事では)不十分だったこと」
が書き出されていますので、1枚1枚を点検しながら、行事欄の右側に設けた生活・学習・進路・その他の領域別の目標記述欄(前稿参照)に移していきましょう。どの領域に含まれるかでの分類です。
分類が終わったら、今度は「達成すべき順序」に添って正しく並んでいるかの点検です。入学間もない頃からできるだけ早いうちに達成したいものから、卒業時に目指すものまで並べていくわけですが、これがなかなかきれいに/一直線には並びません。
行事ごとの目的を入れ替えて、並びを適正化する必要もあるでしょう。各領域の到達目標にはサブカテゴリ―を設けて整理するべきものもありますし、複線的に並行させたり、分岐したり再び合流したりしないと全体の構造化ができないこともしばしばです。
唐突にポツンと異質なものがあったり、二つのものを結ぶのに間にあるべきものが欠けていたりと、これまでの指導に欠落していたもの、整合が取れていなかった箇所などがどんどん見つかります。
関連性の低いものは欄外に移しておき、後で落ち着いてそれ自体が存在しなくても良いものか、あるいは、周囲を固める別の付箋がなければいけないものか判断しましょう。
足りない要素は「補うべきもの」とマークアップした付箋を追加しておき、年間行事予定のどこに組み込むかを考えることになります。
❏ 修正点を反映させて、来年度の予定を組み上げる
この段階で、これまでの行事予定に足りなかったもの、余計だったかもしれないものが、ある程度まではっきりしてくるはずです。
重複しているものも想定外に沢山あるかもしれません。学びには「重ね塗り」も必要ですが、過度な重複は他に回す余力を食いつぶします。
新年度に向けて、明らかに修正が必要で且つ間に合うようなら、更新の際に変更を反映させていきましょう。年間行事予定をゼロから組み直すのには膨大な手間もかかりますし、大きく手を入れると想定外のところで新たな不整合やひずみも生じます。
これまでの年間行事予定に朱入れをしながら、足りていないかったパーツ(事前/事後の指導や成果発表、評価の機会など)を組み込み、個々の行事の修正・最適化を図ることになります。
如上の作業で検知された「修正すべき点」を組み入れるときに、あまり欲張らないことも大事です。新たなパーツの追加で全体がバランスを欠いたり、そもそも修正の作業(=計画立案、各方面との調整、校内でのコンセンサス形成など)が間に合わなかったりすることが懸念される箇所は、もう1年間かけてじっくりと議論するとの判断も必要です。
本稿をお読みになられて、「そんな作業に当てる時間はない」「そんなにうまく組めるものではない」とお感じになるかもしれませんが、それはもしかしたら、これまでの年間授業計画が統一的・戦略的に作られてこなかったからかもしれません。新課程に移行した今、改めての点検が必要なタイミングだと思います。
その5に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一