情報を集めて編む作業で知識獲得の方法を学ぶ(その1)

生徒に一定の知識や理解を獲得させようとするときに、昔から最もよく用いられているのは「話して聞かせてわからせる」という方法かと思われますが、単元固有の知識・理解を獲得すると同時に、それらを獲得する方法を身につけさせることにも十分に意識を向けたいところです。
学校を卒業した後も、科学技術の進歩や社会の変化によって新たな知識や理解を積み重ねていく必要がなくなることはありません。必要なことは自力で調べ、きちんと理解できる(知識を獲得できる)ようになっていないと困るのは生徒本人です。

2020/02/17 公開の記事をアップデートしました。

❏ 問いを与えて、必要な情報を集めて知に編ませる

教科書の新しいページを学び始めるときに、学習する範囲のど真ん中にある理解を質す問いを提示し、(先生が教えてしまう前に)生徒自身に教科書を読んで仮の答えを作らせてみるのは如何でしょうか。
与えられた問いに答えるために、教科書や副教材から必要な情報を探して拾い上げようとする中で、特に意識することもなく「自力で読んで理解する練習」を重ねることができるはずです。

一定の記述量を求めるタイプの問いならば、集めた情報を構造化して論理的に編む表現力のトレーニングにもなります。ICTを使って好適な答案例をシェアすれば、相互啓発が働き効果はさらに大きくなります。
後述のように選択式や求答式(空所に埋める語句を答えるタイプなど)の問題でも、先生が答えを示さず、生徒同士の答え合わせで正解を確定させた方が、力を合わせながら情報を拾い出す力を養っていけるかも。

理解を掘り下げきれないところは、先生が説明して補ってあげるのも結構ですが、「ここはどうなの?」「教科書にはこうしか書かれていないけど、資料集にはどう書いてある?」など、焦点を絞ったり探索の範囲を広げさせたりする問いを追加して再挑戦させたいところです。
先生が発した追加の問いに幾度も触れる中で、生徒は対象をより深く理解するためにどんな問いを自ら発すべきなのかを学びます。
一度や二度の体験で、簡単にそうした問いが立てられるようになるとは思えませんが、1年間、3年間の積み重ねは小さくないはずです。

❏ 自力で仮の答えを作らせることでわかること

このときに生徒が作った仮の答えからは、書かれたことを理解する力、掘り下げて考える力も推し量ることができます。
既習内容の理解が不十分で、書かれているのに理解が及ばないこともあるでしょうし、書かれたことをそのまま写し取るところに止まり、考えを巡らすことができていないこともあると思います。
仮の答えを覗き込んで、生徒が自力だけでは理解を掘り下げられない箇所を捉えれば、授業の力点の置き方にも的確な判断ができるはずです。
最初に作った仮の答えと、ここから始まる授業での学びを経て仕上げ直した答えとの差分は、生徒にとって学びの成果そのものであり、それを可視化することは「授業を受けての自らの進歩」を知ることです。

当然ながら、この差分は、先生方の指導の成果でもありますので、本時の指導を振り返るにも好適な材料が得られます。

❏ 周辺知識はプリントの穴埋めなどの方法で

単元を理解するときの核となる部分は、如上の問いを軸にしたタスクを通じて作り上げることもできますが、周辺知識にもしっかり目を向けさせ、獲得させる必要があります。
そうした場合も、教えきって覚えさせるだけでなく、生徒自身が情報を拾い上げる練習をさせたいものです。

穴埋め式のプリントを用意して、まずは個人ワークで空所を埋めさせ、グループワークで答え合わせをさせるという実践もあります。
情報探索の範囲を教科書や資料集などの手持ち教材に絞った状態であれば、各自が調べたことをグループで突き合わせても答えが決定できないということは、それほど多くないと思います。
答え合わせまで先生が丁寧にやってしまうことを習慣化すると、生徒は答えが示されるのを待つという「悪しき戦略」を取りかねませんので、グループでの話し合いで何とかしろと突き放してしまうのも一手です。

❏ 教科書に「文字との対話」の痕跡を残させる

知識の拡充を図るには、如上のプリントを使う方法以外に、教科書へのマークアップと書き込みをメインにする方法もあります。
先生からの発問を重ねながら、答えとなる箇所を生徒自身が教材の中に探し、見つけたら自分でマークアップするというやり方です。
穴埋めプリントを用意してしまうと、空所を埋めきった後は教科書に立ち戻らなくなりがちですが、その弊害を抑える効果も期待できます。
このタスクを課すときは、ウォーミングアップとして学習範囲を生徒全員で声に出して通読しておくのが好適です。どこに何が書いてあるかひと通りの認識ができ、問い掛けへのレスポンスも良くなります。

また、教科書に書かれていないことに着目させたいときは、押さえるべきことを口頭で説明して聞かせたり、そこに着目するときの視点となる問いを投げかけたりしながら、そのポイントや問いを生徒自身の言葉にさせて教材の余白に書き込ませるのも良いと思います。
教科書との対話の痕跡を目で見えるところに残させれば、復習の役にも立ちますし、メモを取る力を養う練習にもなります。最初のうちは書き込むことを指示しながら、習慣化を経て生徒が自主的にメモをとるようになれば、指導は一定の成果を得たことになるのではないでしょうか。

その2に続く。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一