高大連携や進路関連のイベントに外部人材を活用 #3

高大連携や進路関連のイベントには、講演会や成果発表会など以外にもワークショップ形式のものがありますが、近年、主体的・対話的な学びが重視される流れの中で、ワークショップの形式をとるもの(あるいはその要素を含んだもの)の比率が高まってきているように感じます。
ここでも、外部から招いた人材をファシリテーターなどに上手に活用すると、教育効果はより大きくなることもありますし、先生方にとっても新たな発想を得て、指導の幅を広げる好機になるようです。

2016/02/19 公開の記事をアップデートしました。

❏ 他形式と比べたときの、ワークショップ形式の優位性

ワークショップ形式は、今さら言うまでもありませんが、講演会や成果発表会での講評とは違った効果が期待されています。準備も含めた負荷は決して小さくありませんが…。
参加者(=生徒)側の既得知識や準備の不足による影響を受けにくく、多少の不足なら、途中で補完が効くのもワークショップの利点です。
講演の話がどれだけ素晴らしくても、聞く側に何の準備もなく、問題意識も生まれていなければ、認知の網が張られていない分、浅い理解に止まったり、他人事で終わってしまったりします。ミットを構えていない相手にボールを投げても捕球してもらえません。
成果発表の講評・助言にしても、準備が明らかに不足した発表には大した講評はできず、生徒もまともなフィードバックを得られません。
これに対して、ワークショップは、与えられたお題(問い)に答えを見つけるべく、対話に自分も加わる中で「自分との関り」も生まれます。
議論や作業を周りと協力し合って進めるうちに、知識や理解の補完・拡充も図られますし、問題意識も刺激されていきます。これに加え、自分たちが導き出した解への講師からのフィードバック(指導助言)によって、気づきは広がり、次に踏むべきステップも見えてくるはずです。
それぞれの長所・短所は大雑把に言ってこんな感じでしょうか。○✕△はあくまでも感覚的なものであり、当然、やり方での違いもでます。

講演発表WS
個々の生徒の準備状態に成果が左右されにくい
知識を効率よく与えることができる
生徒相互の刺激(相互啓発)が働きやすい
講師からのフィードバックで気づきが広がる

様々なメリットのあるワークショップ形式ですが、効果的なものにするためのハードルは低くありません。外部からの支援も上手に活用して、費用対効果の大きな学習の機会にしたいものです。

❏ ワークショップの導入フェイズにおける講演で

ワークショップの導入では、もちろん効果的なアイスブレイクも重要ですが、参加する生徒に一定の前提理解と問題意識を持たせるフェイズの成否が、ワークショップ全体の成果を大きく左右します。
詳しいところは、参照資料や関連データなどをクラウドにあげておき、進行途中に経過を見ながら生徒にタブレットやスマホからアクセスさせるにしても、最小限のところは、話をして聞かせた方が、意識への刻み込みは確実なはず。資料があっても読んでくれない生徒もいます。

とは言え、教科書に書いてあったり、ネットでちょっと調べればわかるような「当たり前の話」を聞かせるだけでは、問題意識を十分に刺激するところには至らないのが現実でしょう。
これに対して、研究や実業の前線で活躍している方のお話には、迫力とリアリティ(=身近さ、生徒にとっての自分ごととしての捉えやすさ)が備わります。その広く、深い視野の中には導入に好適な「クイズ」のタネも豊富に存在しているはずです。
ワークショップのファシリテーションは先生方ご自身が引き受けるにしても、導入講演は外部から専門家(研究者、実務者)を招いてお願いしてみるのは、検討に値することだと思います。

❏ ワークショップをデザインする準備フェイズでも

ワークショップはデザインが肝であるのは言うまでもありません。適切な問いを立てて、参加者が取り組む活動を想定し、必要な資料やデータを調えておくことなど、準備で行うべきことが沢山あり、どれ一つとしてないがしろにはできません。
問いがなければ、議論(話し合い)は向かう先を持てず、ただのおしゃべりになります。資料がなければ学びは狭いところでストップします。
問い(お題)を設定するときは、最先端の研究が解明しようとしている問題や、実社会の企業や地域が取り組んでいるリアルな課題に、当事者として関わっている方にアイデアを出してもらい、生徒をよく知る先生方の見立てでそれを補い、協働で問いの形に調えていきましょう。
また、生徒が考えるための材料を得るために参照する資料(テクストやデータなど)も、その所在をよく知り、活用法に習熟しているのは現場の生業として、その問題に取り組んでいる外部の専門家です。
一方、生徒が考えたり話し合ったりする場面、資料に当たって知識と理解を獲得する場面で、どんな学習活動にどう取り組ませるのが良いかは専門家より先生方が良く分かっており、手札も豊富なはずです。
外部から招いた方にすべてを「丸投げ」するのではなく、分業と協働でワークショップをデザインしていくという発想を持つのが好適です。

❏ ワークショップを終えたときの講評・助言者として

ひと通りの活動が終わったら、その成果をグループごとに発表することになりますが、そこでの講評にも、リアルな現場での経験で得た肌感覚のようなものが含まれた方が、生徒の学びに好ましい方向を与えます。
生徒が考え得るのは、教科書などから得た知識と、日常の中で耳目にする情報に基づく範囲に限られますが、現実の問題はそうした知識や情報の先に「根っこ」を持っていることがあり、また様々な利害が対立して一つの解決策では対処しきれない部分も多々あります。
こうした「さらに深く、広く考えてみなければならない問題」をリアルな経験を交えて伝えてくれるのは、日々、現実社会の中で問題の解決に取り組んでいる「校外の専門家」ではないでしょうか。
教科書で学んでいることを土台に、その先を学ぶことの必要性を知った生徒は、自らの進路/キャリアにも深く考える機会を得ます。



生徒が一生懸命に考えたことの中に、専門家が「自分や周りの人が持たなかった着想」を見出すことだってあり得ます。生徒の考えが専門家を触発して、その活動に反映される(=社会を動かす)ようなことがあれば、生徒が「より良い社会の実現」に寄与したということになるはず。
そうした体験は「持続可能な社会の実現に自分たちにも出来ることがある」との認識を生徒に抱かせてくれるはずです。それを機に生徒が社会に参画する意識をより強く持つに至れば、21世紀型能力の「実践力」の獲得も大きく進んだことになるのではないでしょうか。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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