教室は集団で学ぶ場ですので、生徒一人ひとりが安心して勉強に集中するには、一定の規律が保たれる必要があります。しかしながら、勉強に集中しない生徒や規律を乱してしまう生徒がいたとき、きつく指導して従わせるだけでは「主体的な学び」から遠ざかるばかりです。
先生に言われたことに従っているだけで、学びが従属的なものになっていては、指示という外圧ががなくなったときに学習は継続しないのではないでしょうか。「自ら学び続けられる生徒を育てる」ことにならず、指示がなければ何をすれば良いかわからないというのも困りものです。
指示を出してそれに従わせることより、生徒一人ひとりに「学ぶことへの自分の理由」を持たせることに注力すべきだと考えます。
2017/02/02 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 学習効果への寄与度は、目的意識>授業規律
以下の散布図(生徒による授業評価アンケートのデータで作成)は「授業規律が保たれているかどうか」の得点率を横軸に、「自分なりの課題や目的意識を持っているかどうか」の得点率を縦軸に置いたものです。
グラフ中のブルーの○は、「授業を受けて、学力や技能の向上、自分の成長を実感できるか」(学習効果)における評価が、学校全体で上位4分の1にランクインした授業、オレンジの▲は、下位4分の1に含まれる授業です。中位2分の1に含まれる授業は非表示としました。
観ての通りですが、学習効果の高い授業は多くが第一象限に分布しており、授業規律も目的意識も学びが成果を得るには不可欠と言えます。
しかしながら、データをもう少し詳しく見ると、授業中の規律が保たれているかどうかより、生徒が「自分なりの課題や目的意識」をもってこの授業に取り組んでいるかどうかの方が、学びの成果を大きく左右していることがわかりました。
学習効果を目的変数、授業規律と目的意識を説明変数とした重回帰分析では、前者の偏回帰係数は 0.232 であるのに対して後者は 0.808 と両者に大きな開きがあり、学習効果に対する寄与度を示唆する「偏回帰係数のt値」も前者が12.5、後者が26.0となり、後者は前者の2倍です。
規律を守らせることにエネルギーを投じるよりも、学ぶことへの自分の理由を生徒一人ひとりに見つけさせることに注力した方が、効率の上で勝ることを示すデータです。
❏ やるべきことを見つければ、ふるまい方も身に付く
上の散布図では、目的意識と授業規律の間にも一定の相関があることが推定できます。相関係数を算出してみると 0.79 と高い水準でした。
データからは、「やるべきことを生徒が自分で見つけ、どうふるまうべきかを自分で判断できるようになれば、自ずと授業規律も整ってくる」という仮説も成り立ちそうです。
授業内で守るべきルールはあって然るべきもの。無秩序ではどうしようもありません。規律を乱す生徒の周りには、安全・安心の下で学ぶことができていない生徒がいるはずです。
散布図の第三象限ではオレンジの▲が圧倒的に優勢であるのは、規律の乱れから学習活動がきちんと組み立てられないためと想像できます。
かといって、指導を強化して指示に従わせるだけでは、学びは従属的になり、主体的な学びから遠のきかねないのは冒頭で述べた通りです。
如上の相関に着目すれば、「学ぶことへの自分の理由を見つけさせることで、授業規律を引き上げる」という戦略にこそ解決策があるのではないかと思われます。
下図に示す通り、目的意識を高めると着実に授業規律も上向きます。肯定的な回答が占める割合が概ね9割となる75ポイントに目的意識の得点が届くと、授業規律の箱の下端もまた75ポイントに達しています。
❏ 最小限のルールから、徐々に手放す「守破離」
ルールが複雑で窮屈になるほど、人は判断をしなくなり、その結果判断力を高める機会を失うというジレンマに陥ります。
先生のルールに従わせようとすればするほど、生徒は主体的には動かなくなるもの。自分の主体性が及ぶ範囲を押し広げさせることが、生徒を成長させることではないでしょうか。
しかしながら、生徒が学びに目的意識を持つように仕向ける途中にあっても、教室の規律が大きく乱れたり、生徒が互いに尊重し合わなかったりでは、安心・安全の下での学びは実現しません。
鶏と卵のようなジレンマですが、初期の段階では一定のルールを課してしっかり守らせることも必要だと思います。
肝心なことは、学びの場で生徒にどんな行動を期待しているのか、最小限守ってほしいルールは何かを「前もってしっかりと」示しておくことだと思います。そうした事前の意思表示を前提とせずに、問題が生じたときに叱ったり指導したりするだけでは、生徒は指導に込められた先生の意図を冷静に受け止めにくくなります。
授業開き/教科オリエンテーションの際に、授業への取り組み方、教室内で守るべきルール・マナーを、しっかりと先生ご自身の言葉で伝えるようにしましょう。
下に示した項目間の「偏相関係数」で描いた無向グラフでは、ガイダンス(=目的や取り組み方に関する事前指導)の成否が授業規律を最も大きく左右していることが示唆されます。
まずは落ち着いた学びの場を確保した上で、学ぶことへの自分の理由を生徒一人ひとりに作らせていく。この段取りをきちんと踏めば、徐々に小うるさいことを言わずとも、生徒自身が「協働での学びの場でどうふるまうべきか」を判断できるようになっていくのではないでしょうか。
■ご参考記事:
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一