思考を評価するには、課題解決行動そのものを観察することが必要です。「考えるための問い」を示したら、まずは生徒に解かせてみて、その過程でどんな思考がおこなわれているか/どこで躓いているか(どのような思考ができていないのか)を注意深く観察してみましょう。
❏ 問いには2つのタイプ~特性を見極めて
問い(設問・課題)と一括りにされるものの中には、外から見える解決行動で2つのタイプに分けることができます。
- わからないところがあると、そこで思考が止まってしまうもの
- たとえ理解が不十分でも、それなりに答えを書き上げられるもの
とがあります。
着想、知識、理解のいずれか一つでも足りないと、そこから先に進めない──数学の問題などはこちらのパターン。たとえ思考を続けていたとしても、表面的には答案の書き出しがそこで止まります。
一方、テーマが与えられた意見論述などは、問題点の見落としや情報の不足による誤認などを多分に含んでいようとも、生徒は何らかの答え(らしきもの)を文字に起こすことができます。
どの教科にも両方のタイプの設問/課題があり、ひとつの設問/課題に両方のタイプが持つ要素が組み合わさって含まれることも珍しくありません。
課題解決行動を一つひとつのステップに分けて、それぞれがどちらのタイプに属するのか、しっかり見極めることが大切です。
❏ 思考を止めた要因を取り除きながら解決に向かわせる
ターゲットとなる設問(=考えるための問い)をせっかく与えても、思考に必要な道具立てが調わないと思考はそこでストップです。
足りないものが知識であれば、主副教材のページをめくらせれば見つかります。もしそれでも足りない情報があるのなら、プリントで配れば良いですよね。
ところが、ストップした原因が知識の不足でなく、題意を理解する着眼点や解決への道筋が思い浮かばない(解法立案の着想がない)という場合には、違った対処が必要になります。
❏ 着想の不足には「問い掛け」と「話し合い」で対処
着想が持てないときに、不用意にやり方を教えるのは考えものです。
確かに、正答に至る過程を一度経験することで、それを範にして似て非なる問題に対処できる力が身につくこともありますが、それは「問題が解けるようになる」という目的にのみ合致する方法です。
「考える力(思考の方策)」を身につけさせようとする場面、考え方を学ばせるという目的の場合には、教えることがベストとではありません。
喩えて言うなら、支えて起こしてあげるのではなく、自力で立ち上がるように仕向けさせるべきでしょう。
もし教えられたことを覚えるだけになってしまっては、思考の訓練にならなくなってしまいます。
「気づきを促す先生からの問い掛け」 と「生徒同士の話し合い」 によって、気づきのきっかけを作り、解法の糸口、解決への道筋は生徒自身に見つけさせるように仕向けましょう。
自分の努力と工夫で解決できたという感覚は自信となり、学欲の向上も期待できます。
❏ それなりにしか書けなかった答案をスタートラインに
2つめに挙げた「わかっていなくても、それなりに答えが出せる問い」に話を進めます。
問題の捉え方に偏りがあったり、不明に気づかなかったりしたまま書き上げた答案をそのままにしては、学習を通じた進歩(=指導の付加価値)はゼロのままですよね。
一度答えを作らせてそれで終わりでは、その時点での「できた/できない」の区別をつけただけであり、それ以上の効果は何もありません。
生徒は新しいことを何も学習せず、考えもしないままに活動が終ってしまいます。
問いを示して、その時点での理解の範囲で答案を起こさせた後にこそ、指導のポイントがあるとお考え下さい。
❏ 学習を挟んで2度答えを作らせ、その差分を測る
最初に書き上げた答案はとりあえず脇に置いておき、スタート時点での理解の不足、味方の偏りを解消する活動に取り組ませます。
学ばせ/調べさせ/話し合わせてから、もう一度改めて同じ問いに答えを作らせましょう。
学習を始める前に導けた答えと、学びを経て導きだせた答えの差分が、その間に生徒が考えたこと/学んだことを示します。( cf. 最初の答えと作り直した答えの差分=学びの成果)
❏ どんなところに思考の痕跡があらわれるか
初期答案(最初に書いた取り敢えずのもの)と修正答案(学習を経て導き直した答え)との間にどんな違いが生じているでしょうか。
- 初期答案には出現しなかった重要語句が修正答案に現れたら、その語句が示す新たな概念をその生徒が獲得したことを意味します。
- 自力で調べた事柄が答案に組み込まれるようになったら、生徒は必要な情報を意識的に集め、設問の要求と照らして選び出し、他の項目と組み合わせることができたということ。
- グループ討論などを通じて、以前は持たなかった立場を考慮した意見を構成できるようになっていれば、他者の発想や経験を取り込んで考えを再構成できたと見做せます。
- 教科書や資料を読んで新たに理解したことを使って、止まっていた思考を先に進め、課題解決に近づけられたというケースもあるでしょう。
こうした差分をどうやって大きくするか、所与の指導時間の中でどのように最大化を図るか──これこそが、指導立案に際してもっとも強く意識すべきことだと思います。
その4に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一