前稿で取り上げた外部講師による講演以外にも、校外から専門家などを招いて行う生徒向けの行事には、探究活動や課題研究の成果発表会での指導講評などもあります。「総合的な探究の時間」の導入で、その機会は今後ますます増えていくものと思われます。
発表した成果に対する講師からの指導や講評は、これまでに取り組んできたことをきちんと評価してもらうと同時に、これから先の取り組みに方向性を見つけるための貴重な機会。次のステージに進むための「整理と準備」の場になります。他の生徒/グループの頑張りに刺激を受けることも多々あるでしょうが、講師からの講評は、その刺激を上手に消化する上でも欠かせないものです。
❏ 成果発表への指導講評で、刺激を正しく消化させる
これまでに懸命に取り組んできたことの成果を発表する機会は、生徒にとって誇らしくもあり、緊張も感じる舞台でしょう。その機会を設けるだけでも、そこに至る取り組みにはより高い意欲が期待できそうです。
他グループの活動とその成果に刺激を受けて、発想や視野を大きく広げることもできるでしょうし、それらと照らしてみることで、自分たちの成果と取り組みを振り返って、次に向けた課題形成もできます。
しかしながら、単に発表を行って互いにそれを見るだけでは、刺激の働く方向が望ましいものになるとは限りませんし、気づきや学びにも偏りや抜け落ちが生じることが多くなってしまいます。
下手をすると、改めるべき点が多々ある発表を見て、「あのくらいで良いのか」「ウケを狙うのもありだな」といったあらぬ方向に後押しされてしまう後輩学年の生徒だっているかもしれません。
そこで重要になるのが、講評者からの指摘やフィードバックです。良い点をしっかり取り上げて多くの生徒の認識に上らせたり、改めるべき点をその理由とともに正しく理解させたりしてこそ、発表会での学びは有意義な、大きく、深いものになるはずです。
良いところを褒め、悪いところを改めさせるのは、発表に至るまでご指導に当たった先生方も取り組んで来られたことですが、普段は会うことがない外部からの講評者の観点と言葉は、生徒にとって、また違う受け止め方ができるものになると思います。
❏ 講評者をどうやって確保するか
適切な講評、指導・助言は、成果発表を通じて生徒にもう一段階の成長を遂げさせるのに不可欠です。
各教科の先生方がそれぞれの専門/専攻を活かして講評を分担するにしても、生徒がそれぞれにテーマを設定しているだけに、探究対象のすべてを、先端研究や実社会での取り組みと接続する部分まで踏み込んで、カバーするのはそうそう簡単なことではありません。
校外から専門家や研究者を講評者として招くのは、こうした「不足」を補うのに最も現実的な解決策の一つですが、講評を引き受けてくださる方を探すのも容易ならざるところです。
高大連携で提携を結んでいる大学から教員を派遣してもらうのが最も一般的でしょうが、複数の学問領域から教員を出してもらうのは難しく、他からの人材確保も考えなければならないかと思います。
各地では、以下のような方法で講評者の確保に取り組んでいるケースもあります。どの学校でもそのまま使える手とは限りませんが、アレンジして自校の事情に合わせた運用にするのは可能ではないでしょうか。
・他校と協力して相互に教員を派遣
系列校などの普段から関係のある他校と連携して、成果発表会に互いの教員を講評者として派遣するのは、現実的な方法の一つかと思います。
リアルな現場で活躍している方、現役の研究者という「要件」は満たせませんが、双方で、探究活動の位置づけや目標が近い学校ならば、指導の方針をすり合わせていくのが容易というメリットもあります。
また、相手校での発表会をきちんと見ることは、自校の生徒の取り組みや成果を相対化する好機ですし、これまでの指導に改善すべき点を発見する機会になることも少なくありません。
ただでさえ多忙な校務の中、相互派遣なんて無理とのご意見もご尤もですが、多少の無理をしてでも調整してみる価値はあると思います。
・卒業生、保護者、地域の方に協力を依頼
卒業生や保護者、あるいは地域の方々の中にも、高い専門性を持っておられる方は少なくありません。
卒業生には、大学院などで研究を行っている方や企業で現役バリバリに活躍している方もいるでしょうし、保護者も同様です。地域の商工会などを介したら、実に様々な職業の方とも接点を持てるはずです。
特に卒業生は、連絡をつけるのも比較的容易な上に、横の繋がりもあります。学校の伝統や文化もよく理解している分、連携もスムーズです。
卒業後に地元を離れ、別のところに活動拠点を持っていることも少なくないでしょうが、授業や文化祭などの行事もオンラインで行えることがわかった今、遠隔地からでもリモートで参加していただけるはずです。
急に声をかけても協力を得るのは難しいかもしれませんが、連絡を絶やさず、学校の取り組みを知ってもらい、協力者を募っていることを伝え続けていれば、徐々に協力者の「人材バンク」も形成できそうです。
❏ ポスターセッションでの助言者・質問者
探究活動の成果発表会では、代表生徒によるプレゼンテーションに加えて、ポスターセッションも並行して行われることが多いと思いますが、ここでも助言者として外部の方の協力を得たいところです。
生徒が互いのポスターを見て回る中、他の生徒/グループの成果に様々な刺激を受けて、それなりに発想を押し広げ、思考を深めているでしょうが、生徒の間だけではフィードバックは活発になりにくいもの。
互いへの遠慮もあるかもしれませんが、ポスターの内容に「ちょっと変だな」と思う箇所があっても、それを指摘するだけの自信や根拠が持てないため、口に出すのを躊躇うことも多いのではないでしょうか。
ポスターと口頭でのミニプレゼンに対して、批判的なコメントや助言、質問を得てこそ発表者は有意なフィードバックを得ますが、遠慮や躊躇いで「対話」が膨らまないのでは、そこでの学びも膨らみません。
■ プレゼンテーション力より質問力
自校の教員を総動員しても、半数程度は他の業務もあって、同時に行われるポスター発表のすべてに張り付くだけの布陣は組めません。外部の方の協力を得て不足を補うことは、生徒にとっても好ましいことです。
・自校で探究を経験し、大学で専門を学び始めた卒業生を活用
探究テーマについてのある程度の知識と、探究的な活動に取り組んだ経験のある方なら、ポスター発表の内容に対して、その知識や経験の上に立って、質問や助言、あるいは一緒になっての対話ができるはずです。
自校で学び、在学中に先生方の指導を受けながら探究活動を経験して、且つ大学3年、4年となり、専門的なことを学び始めている「卒後数年を経たOB・OG」は、まさに打って付けの人材ではないでしょうか。
生徒代表プレゼンテーションへの「講評」は、まだ学問研究の入り口に立っただけの大学生には荷が重すぎますが、生徒と近いところで対話的に交わすやり取り(質問や助言)であれば、年齢や立場の近さが却って有利に働きます。生徒も身構えずにあれこれ訊けます。
大学で教職課程をとっている学生なら、この上ない「実習」の機会になります。地元を離れ、遠くの大学に通う卒業生でも、オンラインで繋ぐことで参加してもらえますし、大学の休みと時期がうまく重なったら、久しぶりに母校を訪ねてもらうのも悪くないと思います。
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