授業内活動の充実が、学習効果を高めたり、苦手意識を抑制したりする効果をもつことは、以前の記事でご紹介したデータ(下図)でも確認されています。対話による気づきの交換や活動を通した様々な体験が学びを深くしますし、教え合い・学び合いが不明の解消に役立つことなどが、こうした相関の背後にあると考えられます。
また、協働性・多様性・主体性といった、テストの結果で可視化できない学力を身につけさせるトレーニングとして、また獲得状況の測定機会としても、授業内での様々な活動は不可欠であり、その充実は従来以上に重要なものとなってきました。
2015/10/20 公開の記事をアップデートしました。
❏ 生徒が動いてくれない~まずは問題の切り分けから
生徒をいかに積極的に授業内活動に取り組ませるかは、高大接続改革を控えた変革の時代にあって最も大きな課題のひとつでしょう。
しかしながら、いろいろな仕掛けを通じて活動の場を設けても、生徒が一向にのってきてくれなかったり、真面目な生徒たちが指示通りに行動してはくれるものの、そこには何かためらいみたいなものが見えたりすることも少なくありません。
あちらこちらで授業を拝見させていただく中、生徒が動いてくれない場面にはいくつかの類型があるようです。
原因となっている要素が違えば、対処の仕方も異なります。問題の切り分けをしておかないと、間違ったアプローチをとって解決への出口を見失ってしまうかもしれません。
まずは、いくつかの典型的な場面を取り上げて、生徒が動いてくれない理由とその場でとれる対処法を考えてみたいと思います。
❏ 到達点がイメージできないことでの戸惑いと不安
当たり前ですが、最終的にどんな状態(作り上げるもの、身につける能力、発表するもの)を目指しての活動に取り組んでいるのかを、生徒がきちんと把握できていることが、戸惑いのない活動の前提です。
上手く行かなかった場面を思い浮かべてみて、「作業の手順はひとつひとつ丁寧に説明したのに、生徒が戸惑う」という場合、生徒にゴールが見えていないのかもしれません。
なにしろ、日々の学びは生徒にとっては経験のないことの連続です。先生には「この手順の先にはどんなゴールがあるか」は自明ですが、生徒は自分たちがどこに連れていかれるのか、経験に照らしてもイメージできないはずです。
料理のレシピ本で完成品の写真が載っていなかったとしたら、どうでしょう。書かれた通りに手順を進めれば良いといわれても、ここまで踏んできた工程が正しいのか途中で不安になります。このまま進んでいいのか、失敗したくないなという気持ちから、そこで手が止まります。
最終的にどんなもの(理解、作品、解答など)を作り上げるのか、アウトプットイメージを予め示しておくことが、積極的な学習活動の前提になるのはこうした理由によるものです。
本時の学びを終えたときに自力で解を導くべき問いを、板書やワークシートであらかじめ(=導入フェイズで)示しておくのは、こうした問題を解消するのに有効な方法です。
❏ 「習慣化」もゴールをイメージする大切な要素
経験の欠如がゴールのイメージを妨げるなら、習慣化も「目指していることの認識」に一役買ってくれるはずです。
同じような活動場面を繰り返して経験するうちに、生徒の側ではゴールやそこに到達する手順を想像しやすくなるということです。これまでの経験に照らして先生が意図していることを理解できるようになる、と言い換えても良いかもしれません。
ある程度まで活動手順にパターンを決めておくことも、ワークシートのフォーマットを固定しておくことも、こうした効果を期待できます。
但し、いつまでも同じパターンでは生徒も退屈しますし、それまでの学習で積み上げた成果を活かしていないことにもなります。
細かな指示をしなくても生徒が戸惑いなく動くようになったら、もう一段階ハードルを引き上げてみましょう。
ガイドを少しだけ緩くして、生徒の側で判断させる要素を増やしていくことで、自分で先を考えて手順の組み立てや自分がどう取り組むかを考えられるように導くことも指導計画の中に組み込んでいくべきです。
■ご参考記事: 学習目標の示し方
❏ 振り返りシートなどを使って、生徒の認識を確かめる
活動を終えたら、生徒に振り返りをさせることも多いと思いますが、活動を通じて目指したもの(=目標としていたこと)は何かを、生徒自身が自分の言葉で表現してみる機会を作るのも効果的です。
ワークシートを用意しているのであれば、紙面の最後に「今日の目的は何であったか」という欄を設けるだけです。
最初はピンとこない生徒も多いはずですが、グループ内で相談させたり、隣同士で話し合ったりさせながら、書き上げさせてみてはいかがでしょうか。
目標としていたことを確認させた上で、その日の授業での自分を振り返って評価させ、次の機会での自分の目標を設定させましょう。
目的そのものを正しく理解していないのでは、振り返りに照らすべき規準がないということですから、形だけ取り組ませたところで大した効果は期待できません。
授業のたびに本格的に時間を割いていたら、生徒の負担も大きく、時間も押してくるばかりかもしれません。点検をする先生も大変です。30単位35週のすべてで行うより、重要なアクティビティを設定したときに限って行うという判断も好適だと思います。
■ご参考記事: 学習者としての成長を促す”活動評価”と”振り返り”
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一