学校ホームページでの情報発信(その1)

#01 情報発信のための体制作りと計画立案

新年度を迎えると、年間行事予定に沿って分掌や学年などの各組織がそれぞれの教育活動を開始します。計画を一つひとつ実行し、着実に成果を上げていく必要は言うまでもありませんが、もう一つ忘れてならないのが、その成果や活動の様子をどのように校内外に伝えていくかです。
学校広報における最も重要な媒体は言うまでもなくホームページです。どんな情報をどのタイミングで掲載するか、どの各組織が発信の主体となるのか、1年間を見通して計画しておくことは、新学期を迎えるまでのこの時期に欠かせない仕事の一つだと思います。

2015/03/09 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 広報は、肯定的認知を高め、協力者を得るための活動

学校は校内外の様々な組織が互いに関わり合って機能するものです。それぞれの組織が互いの活動を知り、補完し合う/成果に乗っかり合うことが教育活動の成果を高めます。
他の組織(例えば分掌、学年、教科など)が何をやっているか知らないし興味もないというのでは、方向性もバラバラになり、相互補完どころか、下手をすれば足を引っ張り合う危険すらあります。傍から見ても、とても「信頼できる組織」には見えてきません。
また、保護者、地域、関連事業者といった普段は「外」にいる関係者/協力者に学校の取り組みを伝えて正しく理解してもらうことは、協働に参加してもらったり支援を得たりする上で欠かせない仕事です。
これまでに取り組んできたことや積み上げてきた指導の成果、そこを起点とするこれからの展望など、指導が進む中で情報を常にアップデートする必要がありますので、一度発信した情報が固定される紙媒体と更新可能なホームページそれぞれの機能を上手く組み合わせましょう。

❏ 情報発信は広報担当だけの仕事ではない

学校ホームページの運用は、広報を担当される先生が切り盛りするケースが多いようですが、元となる情報を発信するのはそれぞれの教育活動を担う各組織です。
分掌や学年、あるいは教科が自組織の取り組みと成果、今後の展望をきちんと、広報担当者に伝えないとそこから先には情報が届きません。
校内の情報を集めて編集する「校内記者」を導入した学校も見かけるようになりましたが、せっかく記者を配置しても各組織が情報を閉じてしまっていたら取材に出向くきっかけも生まれません。
それぞれの組織が発信の当事者としての自覚を持つことが大切です。
広報を通じて自組織の活動への理解と共感を得ることは、活動そのものの可能性を大きく広げ、ときにはその成否を左右します。発信も含めての教育活動と考えるのが好適だと思います。
仕事柄、学校ホームページを拝見する機会は少なくありませんが、担当組織ごとに情報の密度と発信の頻度が大きく違うこともしばしばです。

❏ 探している情報さえ見つからないのでは…

以前は手作り感満載のものが主流だった学校ホームページも、最新の技術を使いデザインにも凝ったものが増えてきましたが、リニューアルから時間が経つにつれて「あれっ?」と思うことが増えてきます。
たとえば、こんな場面にでくわすこともしばしばです。

  • リンク切れで探している情報にたどり着けない
  • 更新されているべき情報が実は数年も前のもの(合格実績など)
  • サイトの構造が崩れていて欲しい情報を見つけるまで迷路のよう

仕事柄、様々な学校のホームページを日常的に見てそれなりに慣れていても目当ての情報に行きつくのに苦労するのですから、初めてサイトを訪ねてくれた受験生や保護者が感じるストレスは相当なものでしょう。
デザインがダサい、ショボイでは見る気も萎えますから、洗練されたデザインは大切ですが、制服ならいざしらず、「ホームページが Cool!」といって入学する生徒はいませんよね。
大切なのは情報の質と量に加えてその構造です。教育活動を正しく知ってもらい、理解と協力を得るのが目的ですから、入り口や途中に不要なトラップを意図せず仕掛けてしまうようなことは避けたいものです。

❏ 多くの問題は、更新が計画化されていないから

こうした問題は、メンテナンスの作業漏れ、更新作業の停滞、サイトの構造の乱れなどが原因で生じます。こうした問題は、ホームページを立ち上げて時間がたつほどに増えるのは言うまでもありません。
伝えるべき情報が欠けることなく用意され、来訪者の意識にそった「導線」を辿って簡単に見つけられる状態がきちんと保たれているか、定期的に点検しておくことが必要ですが、見つけた不備をその都度つぶしていく対症療法には限界があります。
場当たり的に更新を重ねるのではなく、年間行事予定に沿ってあらかじめ決められた計画に基づき、情報の収集と編集を行うようにしないと、根本的な問題は解決できないのではないでしょうか。
企業や団体の場合と違い、学校は1年という運用サイクルがあります。行事などの予定を見越した計画は、比較的容易に行えるはずです。
ちなみに、古い情報も、機械的に/むやみに削除するのは考えもの。アーカイブとして保存しておくのも好適だと思います。学校の教育活動を記録に残す意味でも、興味を持った方に学校をより良く知ってもらうためにも大切な「データベース」になります。

❏ 潜在的ステークホルダーに繋がる大切なチャンネル

生徒募集は、広報活動で意識の中心に置かれることですが、なんでも良いから生徒を集めれば良いというのものではありません。
学校をよく知ってもらい、意図するところに共感を覚えてくれた生徒が集うコミュニティを作ることこそが広報活動を行うことの目的です。
そのようなコミュニティを形成するのは、目指す教育を実現するための土台作りです。学校がどんな意図でどんな教育を実践し、どのような成果をあげているかをきちっと伝えることからすべてが始まります。
生徒や保護者に対しては、集会や通信などで直接つながれますが、それ以外の関係者、特に潜在的ステークホルダーである「外にいらっしゃる方々」には、学校ホームページが頼りの綱です。
学校説明会に足を運んでもらうにも、パンフレットを手に取ってもらうにも、きっかけが必要であり、その多くはネット上の情報です。極論すれば、いかに少ないクリック数で伝えたい情報に到達してもらうかが、校内で形成されるコミュニティの質を分け、教育成果も左右します。



協働や選択といった「価値の共有に基づく行動」の前には、「認知→理解→共感」という乗り越えるべき3つの段階があります。生徒募集において学校を選択してもらい、教育理念の実現への協働に参画してもらうには、最初の3ステップをいかにスムーズに通過するかが勝負です。
当然ながら、発信だけでは「認知」で止まってしまいます。理解と共感を得るには、効果検証の結果をエビデンスとして示す必要もあります。
その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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