校内のデータは様々なところに散在しています。模試などの成績に加えて、生徒が自ら入力したものもあれば、アンケート調査の結果など特定の組織(分掌など)が作成し所持してきたデータもあります。
これらを電子的にひとつのシステムに組み込もうとすると膨大な手間が掛かります。すでに稼働しているデータベースのシステムがある場合、新たに加えるデータに合わせてその仕様を変更しようとすると、改修に多大なコストが生じます。
新たな調査を行って、そのデータを管理する必要が生じたとき、それに対応していないシステムに組み入れることに拘るあまり、業務が滞って身動きが取れなくなってしまうのでは、本末転倒です。
教育活動の創造性と円滑な業務進行のためにも、データの作り方と蓄積の方法には柔軟な発想と姿勢をもって取り組みたいものです。
2014/04/29 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 無理なデータの一元化より、必要に応じた組み合わせ
ICTの活用が急速に進み、アンケートを行ったり、様々なログを生徒に残させたりするのは以前と比べはるかに容易になりました。
しかしながら、取得できるようになった様々なデータを何でもかんでも一元化して管理しようとすると、システムは複雑化の一途をたどりますし、運用の手間も増えていくことが予想されます。
要は、必要なデータがきちんと保管され、必要に応じて組み合わせることができれば良いはずです。
ポートフォリオの仕様やデータベース構造によっては、インポートそのものができないこともあるでしょうし、生徒がアクセスできるデータベースの中に保存しておくのが好ましくないデータもあるはずです。
個々のデータの使途や内容に見合った方法で保管した上で、教育活動の必要に応じて抽出と関連付けができる仕組みを考えていきましょう。
❏ データの関連付けに欠かせないのが生徒ID
必要に応じてデータを組み合わせるのに欠かせないのが、表計算ソフトやデータベースで検索や参照(LOOKUP)のキーとなるデータです。
学校事務で使われることが多い「クラスと出席番号」では、年度が切り替わったり、入学年度を跨ごうとするだけで問題が生じます。
入学から卒業まで変わらない、過年度生を含めてもユニーク(=他と重複しない)なIDを与えておくことが大前提です。
ID生成の仕組みは様々ですが、ある学校では、入学年度の末尾2桁、初年度在籍クラス2桁、同出席番号2桁に、チェックデジット1桁を加えた7桁のIDを入学時に与えて管理していました。
ちなみに、チェックデジットの生成にはモジュラス11などを用います。
コロナ禍でMicrosoft Teamsなどの導入も進みましたので、そのアカウントを流用することもできると思いますが、アカウントをあちらこちらで使いまわすのも、セキュリティの観点から少々躊躇われます。
❏ これまでに蓄積したデータもきちんと使う
これまでも校内に蓄積してきた様々なデータに、生徒IDを加えるだけなので、これまでに蓄積してきたデータを作り直す必要もありません。
従来の使い方を継続しながら、必要に応じて新たな形でデータの活用ができるようになるのが、この方法の利点かと思います。
日頃の進路指導、学習指導でも、Excel を使って異なるブックやシートに収納されたデータを、VLOOKUP 関数を使って引っ張ってくるシーンは多いかと思います。
新しい学力観に基づく評価をきちんと行うにも、指導場面ごとに蓄積した様々なデータを関連付ける必要が生じる場面は多くなりそうです。
わざわざ Access などのリレーショナル型のデータベースソフトを使わずとも、日頃の業務で使い慣れている Excel でも、校務の必要性を満たすことは十分に可能です。
VBAでマクロが組める先生やサポートスタッフがいれば、処理の自動化もできますし、少し凝れば、使いやすいインターフェイスが実装でき、ソフトの知識が不足する先生でも使いこなせるようになります。
❏ 各組織が取得していたデータを結び付けることで
いつでもアクセスできる場所にまとめておき、必要に応じて活用したいデータは、模試や考査の成績だけではありません。
進路希望や家庭学習時間の調査、オープンキャンパスの訪問先、補習や講習の受講歴、校外での活動状況、生徒会や学校行事での役員歴、部活動の所属先など、対象となるデータは多岐に亘ります。
これまでは、分掌、学年、教科といった組織ごとに独自のフォーマットで保存してきたものを、組織を跨いで活用することが、生徒一人ひとりを多角的に理解することに繋がるのではないでしょうか。
現状において、ある組織が作成、保管しているデータを他の組織が利用していない(ときには所在すら知らないことも…)ようであれば、このあたりの整備に遅れが生じているのかもしれません。
先生方の仕事を増やすことが目的ではありません。いかに既存の資源を追加の手間を小さく上手に使っていくかに知恵を使いましょう。
❏ 技術の進歩で手間がかからなくなるまでの対処
技術の進歩が現状を超えて大きく進化していけば、AI技術の利用によりユーザー側(教員や生徒)がいちいちデータ管理をしなくても良い時代が来るかもしれませんが、今日明日の話ではありません。
新課程への移行で、学習、探究、進路の各指導の結びつきをより密なものにする必要が高まっています。個々の領域の指導を充実させ、その成果を得るだけでは、21世紀型能力の外縁を形成する「実践力」の獲得は確実なものにならないはずです。
これから先、データを関連づける範囲は自ずと、校務(指導の領域)の境界を越えることが多くなると考えざるを得ません。
それに対応できるだけの仕組みと、先生方のデータ活用スキルの向上をどう実現していくか、しっかりとビジョンを描く必要がありそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一