学ぶ理由/自立した学習者

モチベーション理論を授業にどう活かす?

たまたまですが、去年あたりから、学習意欲の向上を図るのに有効な指導法はないかといったご相談を受けることが続きました。改めて問われると不勉強を自覚せざるを得ず、もう一度勉強を始めたところです。あくまでも「勉強の途上における、自分向けのメモ程度のもの」として、温かい目でお付き合いをいただければ幸甚に存じます。 ❏ まずは、広く知られた「モチベーション理論」を概観 代表的な「モチベーション理論」と言えば…

次に進んだときの学習をイメージ

各単元の学習目標は、当該学習内容を理解させることに加えて、学びのステージが次に進んだときに備えて、基礎的な理解や学びの方策などを身につけさせておくことにもあります。学習内容が高度化していく中で、学習方策の獲得が遅れて「生徒が個人の学習活動でできること」が相対的に減っていくようでは、教室でしかできない学びを充実させることもできなくなってしまいます。また、学びが進んでいくと、不明や躓きが起きる箇所も生…

学ぶ理由/自立した学習者

1 学び続けられる生徒を育てる 1.1 自ら学び続けられる生徒を育てる ・学習方策の獲得はどこまで進んでいるか ・目的意識をもって学びに取り組んでいるか ・生徒の興味・関心をどこまで育めたか1.2 全教科でコミットすべき能力・資質の涵養 ★ ・教科固有の知識・技能を学ぶ中で1.3 認知の網の広げ方~5教科7科目をきちんと学ばせる ★ ・5教科7科目に挑ませることの意味1.4 学びに向かう力/主体的…

学びにおけるインプット(input)とインテイク(intake)

新しい学力観に沿った学ばせ方への転換を図ろうとするとき、学ぶ過程を「インプット」と「インテイク」に分けてみると、様々な着想が得られたり、見落としていたものに気づきやすくなったりします。ともに知識や情報を外から内に入れることに変わりありませんが、専ら外からの働きかけで行われる「入力」と、不明を見出した/興味を持ったときに、自ら求め、工夫して行う「取り込み」とは別ものです。 2019/03/22 公開…

主体的に学ぶ姿勢は、アメやムチでは作れない

生徒が主体的/意欲的に学習に取り組むようになるのは「学ぶことへの自分の理由」(加えて「自立的に学べるだけの学習方策」)を獲得したときです。生徒を学びに向かわせるための手段として古くから多用されてきた、「頑張ったことへの褒美や賞賛(アメ)」や「サボったことへの罰や叱責(ムチ)」では、如上の成立要件のいずれも満たせません。 褒美をくれたり、褒めてくれたりする人や、叱ってくれる人がいなくなった途端に、学…

学ぶことへの自分の理由と負荷への耐性

教材や課題の難易度には、学力の伸びを最大化する「適正範囲」がありますが、生徒が「その科目を学ぶことへの自分の理由」を持っているかどうかで、適正範囲そのものが変化します。本稿でご報告するのは、授業評価アンケートにおける以下の3つの質問への回答を組み合わせて解析してみた結果です。 本稿を初めて投稿したとき(2018年1月=新課程への移行前)よりもデータの蓄積が進み、且つ、各校で「新課程の下での学ばせ方…

学習方策は課題解決を通して身につく

ある単元を学ばせるのに「不明を残さずに内容を理解させること」だけを目的とするなら、先生が丁寧に教えてあげれば十分かもしれません。また、ある問いに正解を導くことだけを目指すのであれば手順をきちんと示してあげることで当座の目的は達することができると思います。しかしながら、このアプローチでは「学び方を学ばせる」という要素が欠落する可能性が大です。「先生が丁寧に教えてくれさえすれば理解できる」という段階に…

積極的に学ぶ姿勢(記事まとめ)

積極的に学ぶ姿勢を生徒一人ひとりに持たせたいというのは、先生方のどなたもが抱く思いでしょうが、その実現は言うほどには容易ではありません。学びへの積極性を引き出すには、それを成立させている要素群を正しく想定し、その一つひとつを着実に作り出す必要があります。如上の構成要素の想定(=問題の切り分け)には、生徒が学びに消極的になる場面を思い浮かべ、そこに潜む阻害要因を考えてみるのも好適。以下のようなケース…

生徒が自分で気づける機会を作る

教科学習指導において、科目に固有の知識や技能を獲得させようとする場合、一つひとつを丁寧に説明して理解させる、所謂「教える」というアプローチのほかに、問い掛けて考えさせたり/体験を再構成させたりする中で「生徒自身に気づかせる」というアプローチがあります。思考は一定の知識がなければ成立しませんので、「しっかりと教える」ことも指導者として逃れられない大切な責任/仕事ですが、生徒が自分で気づけるようにする…

リフレクション・ログから読み取る”評価者スキル”

評価者としての成長とは、「自分の取り組みとその成果を客観的に捉えて、進捗と改善課題を捉えた学びが自律的に行えるようになること」、別の言い方をするならば、「適切な振り返りができるようになること」を意味します。cf. メタ認知、適応的学習力成長(=評価者スキルの獲得)の痕跡は生徒が起こすリフレクション・ログにも表れるはず。「自分の取り組みとその成果をどれだけ客観的に捉え、より良いパフォーマンスを得るた…

行動選択の力を養う指導と評価~生徒意識(4)

生徒意識調査のQ09行動選択「進路のことや今何をするべきかを考えて行動できるようになった」に反映されているのは、教科学習以外の生活や進路などの領域にまで拡張されたメタ認知・適応的学習力でしょう。今の自分が置かれている状況を、少し先の未来に待ち受けるハードルや分岐に照らして理解し、何にどう取り組むべきかを考え出して、行動に移せる(さらに検証しながら修正していく)生徒を育てたいものです。 ❏ 学年ごと…

情報の整理・構造化のやり方を板書で学ばせる

情報を整理・構造化する方法は、先人たちによって様々なものが生み出されてきました。それらを活用する場面は、日々の教室にも豊富です。インデントや段落記号で階層性を表現したり、表組でものごとの対応性を捉えさせたりする板書に加え、教材のページには、フローチャート、ベン図、概念地図といった多様なダイヤグラムが方々に登場します。これらについて考え方を身につけておけば、複雑な情報を整理したり、整理した結果を他者…

認知の網の広げ方~5教科7科目をきちんと学ばせる

前稿「5教科7科目に挑ませることの意味」では、学ぶ科目を早くから絞らせず広くしっかり学ばせることの主たる意味を、「認知の網を広く偏りなく張らせること」と「各科目の内容を学ぶことを手段に獲得した能力・資質を汎用性のより高いものにすること」の2つに求めました。生徒にとって多くの科目を学ぶのは負担に感じるところも大きく、「直接的な必要性がないと思える科目」の勉強はつい手を抜いてしまいがちです。担当の科目…

5教科7科目に挑ませることの意味

国立大を「一般選抜」で志す受験生は、原則として5教科7科目(25年からは「情報」が加わって6教科8科目)を勉強しなければなりませんが、それ以外の生徒(大学に進学しない生徒も含めて)にも出来るだけ多くの科目を最後までしっかり勉強してもらいたいと考えます。進路希望実現のための要件を満たすだけなら、必要最小限の科目に絞って勉強する方が「得点力向上のコストパフォーマンス」は高くなるかもしれませんが、ことは…

イノベーションをもたらす認知の網と偶然との出会い

新しく見聞きしたことを理解したり、そこに問題を発見したりするのは、もともと持っていた知識と新たな情報が接点を持ったということ。新たな情報が放り込まれたところの周辺に、既に蓄えられていた知識が待ち受けていないと、情報は接点を得ることなく素通りしていきます。既に知っていること/理解していることは、新しい情報を拾い上げるための「認知の網」として機能します。学びや体験の欠如で「網」が張られていない/穴が開…

改めて考えてみる「問いを立てる」ということ

このブログでもたびたび「問いを立てる」という言葉を使ってきましたが、改めてその意味するところを考えてみたいと思います。単純に「なんだろう」「どうなっているのだろう」と疑問や興味を持つ段階から、「疑問の正体を特定し、共有可能な表現でその本質を表現する」という過程を経てようやく「問いを立てる/起こす」に至ります。目の前の事物を注意深く観察したり、資料などを注意深く読んだりしないと、起点の「なんだろう」…

自ら学ぶ力を獲得させるために~観察と評価

日々のご指導において、知識や技能、思考力、判断力、表現力を鍛え、獲得させるための「指導と評価」に抜かりはないところと拝察いたしますが、その一方で「学びに向かう力」については如何でしょうか。学びに向かう力を育み、主体的に学習に取り組む態度を評価することの目的は「生徒を学習者として自立させる」ことにほかなりません。卒業後も学び続け、より良く生きるのに必要な知識をアップデートし、それらを正しく生きて働か…

学びの個別化と授業者に課される役割の変化

昨日(8月26日)の朝刊に、今春に本格導入となったデジタル教科書で教室に起きた変化を紹介する記事が載っていました。(デジタル教科書使うほど「主体的学習」に、授業が課題)生徒がそれぞれ自分のペースとやり方で勉強を進められ、学びの成果や過程を端末を通じてシェアできることは「主体的・対話的で深い学び」の実現を容易にすると同時に「学びの個別化」も加速していきます。最初の利点(自分のペースと方法)で、説明を…

学習方策の獲得、学習の改善~データと考察

学びへの目的意識~データと考察(その1、その2)と同じように、学習方策(科目の学び方や取り組み方の獲得)についても、直近に集まったデータを、教科×学年という切り口で集計し直してみました。以下がその結果です。学習内容が高度化していく中、「自分が身に付けている学び方」に自信を失っていくと考えれば説明がつきそうなデータです。どの教科も最終学年で跳ね上がるのには、そこまでに学び方が身につかなかった科目は履…

学びへの目的意識~データと考察(その2)

前稿(その1)でご紹介したデータを国社数理英の教科に分けて学年毎の集計値分布の推移を調べてみると、以下のような結果になりました。なお、グラフ中のブルーの破線は「教科別中央値」です。 (クリックで拡大) 予想通り、どの教科でも例外なく、「中間学年」は教科別中央値を下回っており、中弛みが観察されますが、その下がり具合や、最終学年での戻り方には、教科ごとの特徴のようなものも見て取れる気がします。また、ど…