主体的・対話的で深い学びの実現に向けて、生徒が自ら(=主体的に)学びに取り組むための学習活動/アクティビティを用意し、課題解決に向けた協働の中での生徒同士の話し合い(対話)を増やすなど、先生方は日々の授業に工夫を重ねておられることと拝察いたします。
そうした工夫を積み重ねる中でこそ、指導改善の成果は定期的に/しっかりと確かめていく必要があろうかと思います。
生徒が対話に参加する場面をどれだけ作り出したかという自己点検に加えて、「対話にどれだけ積極的に参加できたか」「対話を通してどれだけ学びの成果を実感できたか」といった生徒視点での評価も必要です。
ポートフォリオに残されたリフレクション・ログや、ルーブリックに照らした自己評価の結果、さらには授業評価アンケートのデータも利用しながら、指導改善の成果をきちんと検証していきましょう。
2018/07/24 公開の記事をアップデートしました。
❏ 学習活動の中で得る充足感と学力向上への手応え
生徒に「討論などの活動を通じて充足感を得ることがあるか」と尋ねてみたら、どのくらいの割合で肯定的な回答が返ってくるでしょうか。
対話の機会そのものが不足しても、当然、否定的な回答が増えますが、目的意識を持って生徒が対話に参加していない(=主体的でない)場合は、充足感よりもやらされ感が前面に出て、肯定的には答えません。
活動を通して何らかの達成観を得ていない(学びの成果をたな卸しできない/新しく出来るようになったことを正しく認識できない)場合も、この質問にはなかなかYESとは答えてくれないはずです。
主体的・対話的な学びは「深い学び」を実現するための手段ですので、所期の成果を得たかどうかは、対話による気づきを重ねた結果としての学力の向上や自分の進歩を生徒が実感する度合いに見て取れます。
如上の質問に「授業を通じて学力の向上や自分の進歩を実感」できるかを並べて聞いてみれば、両者の回答分布や換算得点に照らし、主体的・対話的な学びという「手段」と深い学びという「結果」の双方に、先生方の工夫がどこまで成果を得ているかを探れるのではないでしょうか。
❏ 授業内の活動性と学力向上感で散布図を作ってみる
主体的・対話的な学びという手段が、深い学び(学力向上)という目的にきちんと寄与しているかどうかは、対話協働/授業内活動と学力向上感の換算得点で散布図を作ってみると推定がしやすくなります。
言うまでもありませんが、散布図の作成には学校全体/各教科でデータを集める必要があり、管理職や教務部からの理解と協力は不可欠です。
下のグラフは様々なタイプの学校で行った授業評価アンケートで収集した、のべ 5,121 授業の集計値から作成したものです。
分布のピークよりも左側に位置するなら、活動性そのものが相対的に低いということになります。充足感が「少しある」に相当する ±0 に届かないと、学習効果で必達目標である75ポイントに達する授業は、例外的と言えるほど少数です。適切な課題を用意し、その解決に向けた協働の場をこれまで以上に増やしていくべきとのご判断になるはずです。
近似線を下方に大きく離れているなら、活動性から期待されるほど学習効果を実感させられていないということ。どこかにある「学習効果を妨げる要因」(ボトルネック)を特定し解消を図らなければなりません。
なお、活動性は学習効果との間に 0.8 を超える強相関を持ち、重回帰分析で推定した学習効果への寄与度では、「わかりやすさ」や「(その科目が)得意か苦手か」をも凌ぎ、全評価項目中で最大です。
学習効果を目的変数とする重回帰分析の結果(決定係数R2乗=0.877)
❏ 問いを与えて「学ぶことへの自分の理由」を作らせる
実際の教室を見ていると、様々なアクティビティを授業内に豊富に配列して活動性を高めている授業が、必ずしも如上の質問で高い評価を得ているとは限りません。
前述の通り、先生がどれほど生徒に活動を促しても、生徒の側に「やらされ感」があれば、「充足感」は遠ざかる一方です。生徒一人ひとりが活動に目的意識をもって取り組めるよう、「学ぶことへの自分の理由」を持たせることが先決だと思います。
ここでカギになるのは、生徒が解くべき課題をきちんと設定しているかどうかです。協働で解決に取り組ませる(=話し合いをさせる)にも、互いに協力して解決を図るべき課題がなければ、話し合いが自己目的化してしまい、方向性も盛り上がりも失うばかりです。
実際、同じデータから作成した下の四分位図を見ると、活用機会(習ったことを使ってみる機会が整えられているかどうか)での集計値が高い授業ほど活動性が高いことは一目瞭然です。
なお、活動性の中央値が、前掲の散布図で近似線が{学習効果=75}と交差する 2.04 に達するのは活用機会が80ポイントを超えたときです。
導入フェイズで本時の学びを経て解決すべき課題を与え、その時点で手持ちの知識・理解で導ける「仮の答え」を作らせれば、解消すべき不明の所在に気づき、解き明かしてみたい興味を見つける中で、生徒は「その単元を学ぶことへの自分の理由(学習目的)」を見出していきます。
また、賛否の分かれるイシューを与え、生徒同士でディスカッションさせてみたりすることで、その日に扱おうとしている問題を生徒は自分事として認識できるようになり、解を見つけ出したいとの「欲求」(=学習意欲)を高めてくれるはず。やらされ感ではなく、充足感や達成感を覚えられる学びが実現していきます。
こうした仕掛けを講じることで「主体的」に「対話」に参加させれば、その中での気づきの交換や、問答の中で重ねられる問いにより、思考や学びは深まっていくのではないでしょうか。
授業を通じて学力の向上や自分の進歩を実感させることで、その科目への興味を持たせ、学び続ける意欲の維持・向上が図れます。
もう少し、詳しく調べ、主体的・対話的で深い学びを妨げている要因がどこにあるか探ろうとするなら、別稿「主体的、対話的な深い学びへ~授業評価アンケート」でご提案した通り、【対話協働】に加え、【学習方策】や【目的意識】を質す項目を併用してみるのも好適です。
■関連記事:
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一