スマホの校内持ち込み解禁の報道を読んで

公立の小中学校での携帯電話やスマートフォンの学校への持ち込みを原則禁止とする従来の指針を見直すことになったとの報道がありました。子どもの携帯・スマホの所有率が上がったことや、緊急時の連絡に役立つことなどが見直しの理由に挙げられています。
内閣府による調査(2017年度)では、小学生の55.5%、中学生の66.7%、高校生の97.1%がスマホか携帯のいずれかを所有しているとのことですので、学校への持ち込みを禁止するか/許可するかという議論とは別のところで、情報モラル教育の充実が必要なのは言うまでもありません。
❏ 入学時点で使用のスタイルを固めているとの前提で
所持率がこれだけ高いということは、生徒は小学校や中学校に通っている間に自分なりの使い方を、正しいものか歪んだものかは別として、既に身につけていることを前提に、中学校、高校での指導を考える必要があります。
文科省のサイトには情報モラル教育の充実というページがあり、『ちょっと待って!スマホ時代のキミたちへ~スマホやネットばかりになっていない?』という児童生徒向け啓発資料が配布されています。

しかしながら、冊子を配って読み合わせをしたぐらいで、「はい、わかりました」と素直に聞いてくれるとは限りませんし、もしそうなら誰も指導に苦労はしませんよね。
まして、すでに歪んだ使い方を習慣化してしまった生徒に、後出しであれこれと大人が作ったルールを押し付けたところで、指導の効果はあまり期待できないような気もします。
❏ ルールを守らせるには「守ることの自分の理由」が必要
拙稿”生徒に考えさせる授業規律“で書いた通り、ルールを守らせたいなら、そのルールがなぜ存在するのかをしっかり考えさせ、「ルールを守ることへの自分の理由」をはっきり認識させる必要があります。
中には、「ルールは守るもの」と素直に訊いてくれる、ありがたい生徒もいますが、みんながそうとは限りません。
如上の冊子(啓発資料)を使うにしても、書かれていることの一つひとつに対して「なぜ、こんなことが書かれているのか」を問い掛け、考えさせたところを言葉にさせるなどのステップを挟みたいところです。
論に長けた生徒もいますので、生徒の屁理屈に先生がやり込められては話になりませんから、まずは先生方の間で読み合わせをしっかり行っておき、「本校での解釈」を確立・共有しておく必要もありそうです。
当然ながら、生徒の言い分の方が正しい時もありますので、教室での読み合わせで出てきた意見や考えは、先生方が持ち寄り、「学校の方針」に反映させていくことも忘れないようにしましょう。
❏ 入学時点での実態調査と指導方針の明示
スマホや携帯の使い方に限らず、入学してから卒業するまでの途中でルールが変更されては、生徒も納得しにくいはずですので、ルールや指導方針の周知は入学の時点でしっかり行っておきたいものです。
問題が生じてからルールを「追加」する、後出しでは、窮屈さが増すことに生徒は不満を覚えます。納得しないルールに対し、「バレないように破る」という策を学習させては何にもなりませんよね。
生徒の多くは小中学校のときからスマホや携帯を使っている以上、学校が定めたルールがそれまでの習慣と競合するのもしばしばかと。
まずは、入学してくるまでに、どのようにスマホや携帯を使っていたか、調査をしてみる必要があろうかと思います。

  • 一日にどのくらいの時間をスマホを見つめて過ごしているか
  • どんなことにスマホを使い、その割合はどうなっているか
  • 小中学校ではスマホ・携帯の使用にどんなルールがあったか
  • これまでにスマホを使っていて危険を感じたのはどんな時か

といったことは、事前登校日や最初のLHRなどでアンケートを行い、調べてみても良いのではないでしょうか。現況を正しく把握することは、指導の方針を探り、確立する上でも欠かせない工程です。
調査の結果は、教員間で共有した上で、「指導が必要な箇所」と「許容できる範囲」の境界がどこにあるか目線合わせをしておきましょう。
これを怠ると、指導に教員間でばらつきが生じてしまいます。
時には、学校運営連絡協議会などで地域の小中学校と、指導の実態についての校種をまたいだ情報交換も必要かと思います。
❏ 調査結果をもとにルールとマナーを考えさせる
如上の調査結果は、出来合いの冊子を用いた指導に足りないものを補完するのに好適な教材になるのではないでしょうか。
スマホや携帯の使い方、SNSやゲームなどを含むインターネット利用のルールとマナーを考えさせるのに、実例に基づく議論は様々な気づきと示唆を生徒に与えてくれるはずです。
一日に6時間以上もスマホを握りしめていることを習慣化している生徒も少なくありませんし、その生徒に意識を質してみると、その異常さに気づかず「普通のこと」と認識していることもあるようです。
本当にそれが普通だと思うのか、仮に普通だとしても好ましいことなのかを質して、反省を促す必要はありそうですよね。
スマホを見つめて過ごしている時間の一部を、もし他のことに割り当てたら、どんなことができて、それが1年後、3年後の自分に何をもたらしてくれるかを考えさせてみるのも良いかもしれません。
こうした議論や内省を経て、スマホや携帯をどう使い、SNSやインターネットとどう関わるかを、生徒一人ひとりがじっくり考えた結果を、言葉にさせ自分自身に向けて宣言させるのはどうでしょうか。
他人が決めて押し付けられたものと違い、生徒が自分で決めたことなので、「守ることへの自分の理由」も持ちやすいでしょうし、守られなかったときの指導にも違った形がとれるはずです。
生徒自らの宣言に基づき、その後の指導を行うという組み立ては、宿題をやってこない生徒への対応と同じです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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