習熟度別にクラスを編成/展開する場合、考査問題を共通にするか、別にするかは悩みどころです。共通問題とした場合、上位で点差がつきにくくなったり、下位で低得点に集中したり何かと問題が生じます。別問題にすると、今度はクラス間の比較ができないだけでなく、指導上の改善課題も見えにくくなるなど、こちらもスムーズに行きません。
こうした問題への解決策を探ってみる前に、まずは、前提となる「習熟度別クラス」の運用方法について少し考えてみたいと思います。
❏ 進度差は設けるべきか
習熟度別クラス編成にした場合、クラス間で進度に差を設けるかどうかは、必ずと言ってよいほど議論になります。
発展クラスでは、受験直前期に演習の期間をたっぷりとりたいという意図もあって、こなせる範囲でできるだけ先に進んでおき、それ以外のクラスでは、無理をさせずに標準的な進度を守るというパターンが、良く見かけられるものです。
このパターンを採った場合、定期考査ごと、あるいは学期ごとのクラス再編成(生徒のクラス間移動)が難しくなります。入れ替えでせっかく昇級したのについていけず、下のクラスに戻ってくる生徒も少なくありません。
どんな集団でも、その内部には必ず差が生じます。集団を固定するとその中で上位と下位に分かれていくため、発展クラスの成績下位者と、基礎クラスの成績上位者との間で逆転を解消すべく、どこかのタイミングでクラス間の入れ替えが必要です。
習熟度別クラスは、そもそも導入の理由が、学力差の抑制であり、一人ひとりに最適な学習環境の付与である以上、最初に作った集団がそのまま維持されるのは、どうかと思います。
このように考えると、習熟度別クラス編成において進度差は設けずに、クラスの再編成が可能な運用形態を採る、というのが基本的な考え方になろうかと思います。その上で、クラスに応じた最適なカリキュラムを作り、学力形成への適切な目標達成マネジメントを行うというのが想定できる唯一の解です。
❏ 進め方ではなく、深め方で差をつける
せっかくクラスを分けたのに、発展クラスと基礎クラスとで同じ内容の授業を行っては、伸ばすべき生徒に伸びる環境を与えられません。単元の進行速度で違いをつけるのではなく、学習内容の深め方で差を設けるのが、最善の方策ではないでしょうか。
発展クラスでは、「思考」や「表現」といった要素を、より多く含んだ課題を与えるようにしましょう。既習単元との融合問題なども、積極的に取り込みたいもののひとつです。
学力の三要素のうち、「知識・技能」以外の、「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」により大きな厚みを与えるという言い方もできるかも知れません。
一方、基礎学力に不安を持つ生徒が多いクラスでは、新単元の導入時に既習内容の「学び直し」により大きな時間を割いたり、知識の定着を促すための反復機会を増やしたりといった方向で、扱う内容や進め方の調整を行います。
❏ 習熟度の不足を補うのは「集団知」
習ったことを覚えて再現するだけの学習では、達成感が希薄であり、出来るようになったという感覚に乏しくなるのは、上位生でも下位生でも変わりません。
単に、記憶と再現に偏らないよう、基礎クラスにおいても「習ったことを使った課題解決体験」はきちんと用意しなければなりません。
かといって、基礎に不安を残したまま、初見の問題に挑ませても返り討ちに合う公算が高そうです。ひとりで解決できない課題には、「集団知」で挑ませましょう。
グループ学習や教え合い・学び合いの場面を多く作るのはその方法です。それぞれが考えたところを話し合い知識や発想を交換することで、一人では解決できないものにも手が出せます。
こうした経験を通じて、周囲との協働の中でなら、難しい課題にも解を導けるということを、実体験として学ばせていくことも大切ではないでしょうか。
こうした場面を通じて、不明の解消法や不足する知識の補完法といったいわゆる学習方策や課題解決へのアプローチを徐々に身につけさせて、最終的には自分ひとりで解決できる範囲を広げていくという方略です。
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その2に続く
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一