昨年末に、本年度2回目の授業評価アンケートを実施した学校も少なくないと思います。そろそろ集計結果もまとまる時期(のはず)です。
集計結果が手元に揃ったら、「より良い授業に近づいたか」「改善課題の解消は進んだか」を視点に、数字をじっくり見ることが大切です。
別稿「授業評価アンケートの結果の見方、活かし方」でも申し上げた通り、まずチェックが必要なのは、目的変数である「授業を受けて実感する学力の向上や自分の進歩(Ⅶ学習効果)」の集計結果です。
学力の向上や自分の進歩を実感した(=科目の学びへの自己効力感を得た)生徒は、その科目への興味や関心を深めていくことがデータで確認されています。学び続ける意欲の原資がこの「実感」ということです。
このサンプルでは、Ⅶ学習効果における前回の得点は「目標ライン」の75ポイント(※)にわずかながら届いていませんでしたが、今回の結果では大きく(+9.3)伸び、82.5ポイントという良好な評価を得ました。
※肯定的な回答が9割を占める水準。
集計結果を見る限り、前回からの数ヶ月で「より良い授業」に近づくことができたといって良さそうです。
❏ Ⅶ学習効果の変動を確認したら、その理由を考える
Ⅶ学習効果の換算得点が、必達目標(75ポイント)に達したか、前回より高まったかを点検するだけでなく、他項目の評価やその変化にも目を向け、何がどう作用した結果なのかを考えてみることも大切です。
上のサンプルでは、ご自身の中で相対的に弱く、「改善課題」であったⅠ板書や資料、Ⅱ指示と説明の2項目で改善が図られ、それぞれ前回から7ポイント前後も得点がアップしています。
両項目とも期待指数は今回もマイナスの値であり、依然として「弱み」ではありますが、以前ほど大きなボトルネックではなくなりました。
ボトルネックが解消された結果、もともとご本人に備っていた「強み」であるⅥ対話協働を、より活かせる「前提理解の形成」が上手くいくようになり、Ⅶ学習効果に大きな上昇をもたらしたと考えられます。
Ⅴ活用機会は前回までに先行して改善が進んでいたこともあり、そうした授業に慣れてきた生徒が、課題解決の体験を通して学習方策を身につけてきた(Ⅸは+2.7)ことも、Ⅶ学習効果を一層押し上げたはずです。
❏ ある項目の改善に集中したことで他が疎かになった?
前回の結果で、キャッチアップの必要性が明らかになった項目があれば、その改善に力が入るのは当然のことかと思います。
取り組みの成果がどれだけ得られたか、その項目の評価がどこまで改善しているかは気になるところ。しっかり数字を見ましょう。
下の例では、Ⅲ理解の確認に改善課題を抱えていたことになりますが、当該項目は5ポイント以上も上昇しており、改善の努力は一定の成果を得たことになります。当然ながら、Ⅶ学習効果もプラスです。
理解の確認と強く相関するⅡ指示と説明も「連れられて」改善したようです。両者が相まって知識・理解の形成がより円滑になったことで学びがより確かなものになったと思われます。
しかしながら、そちらに注力し過ぎたのか、強みであったⅥ対話協働にマイナスが生じました。教えることに意識が向き、「学ばせること」が疎かになるのは、比較的良く見られるパターンです。
思考の拡張や学びの深化にも、課題解決の場での協働性などの獲得にも対話や協働は重要なだけに、強みを伸ばせなかったのは惜しまれます。
もし、理解の確認を対話を通じて行うことを十分に意識していたら、もともとの強みもそのまま生かすことができたかもしれません。
ボトルネックの解消には、「すでに備わっていた強み」を活かす形で取り組むことが大切です。
❏ 改善課題の克服には、どの土台作りも肝要
頭の体操を兼ねて、もう一つ別の例を見てみましょう。2回分のデータとその差分にどのような解釈をなさいますか。
前回の結果で示された「改善課題の所在」は、Ⅴ活用機会(学んだことを課題解決などに使ってみる機会=獲得した知識・理解に生きて働く場を与えること)であるのは明らかです。
今回のデータを見ると、期待指数はマイナスのままながら、換算得点は4ポイント上昇しており、弱点だったⅤ活用機会の充実を図ろうと努力されてきた様子は十分に見て取れます。
しかしながら、他の項目に目をやると、Ⅰ~Ⅲの各項目(伝達スキル領域)では、わずかながら前回を下回っていることに気づきます。
課題解決や対話協働といった学習活動の土台になる、知識・理解に不確かなところが残れば、「挑んだ結果が返り討ち」という事態も、十分に想定されるところではないでしょうか。
以下の記事でも申し上げた通り、課題解決などに取り組ませる機会を充実させたら、それ以上に「そこまでに学んだ(はずの)ことの確認」にも力を入れなければなりません。
■関連記事:
授業評価アンケートの質問群は、目的変数であるⅦ学習効果に有意に寄与する事柄を説明変数として配することで設計してありますが、各項目は互いに影響を及ぼし合います。
相関行列(項目間の相関係数の一覧:サンプルは下図)なども参考に、関連の強い項目はセットにして改善を図る必要があるとお考え下さい。
これまでに蓄積したデータの解析で分かってきたことも多々あります。以下のまとめページからお読みいただける各記事が、より良い授業の実現に少しでもお役に立てば、この上ない喜びです。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一