アイデアを出させる前に、まずはきっちり調べ学習

学校の中に新しい教育活動が採り込まれるにつれて、生徒にアイデアを出させる機会が増えてきました。日々の教科学習指導の中でもPBL型の授業デザインなら、解の導き方や物事を確かめる手順などを生徒自身の発想に委ねることもあれば、探究学習のテーマを考えさせたり、新しいビジネスの発案に挑ませたりすることもあります。
そんなときに、何の土台も準備もなく「さあ、アイデアを出そう」と旗だけ振っても上手くは行きません。下準備としての調べ学習にきちんと取り組ませ、知識や情報を拡充させるとともに、解決すべき問題がどこにあるかを見つけさせることが先決だと思います。

❏ アイデアを出したいなら、まずはしっかり調べる

新しいアイデアとは、既知のものに「新しい組み合わせ」を与えることや、それまでできなかった組み合わせを可能にする「新しいパーツ」を作り出すことで生まれることが多いのではないでしょうか。
既に知られていることや、どこかで行われていることを事前にきちんと調べることは、アイデアを出そうとするときの大切な準備です。
イノベーションと言われるような大転換も、既にある技術や知見という土台があってこそ生まれるものだと思いますし、身近なところにある問題にも、解決策やそのヒントとなる知見やツールが思いもかけなかったところに存在していることも少なくないと思います。
よく調べもせずに思い付いたことをただ並べてみても有意なものは何も生まれませんし、そもそも考えるために必要なパーツが足りない状態ではアイデアそのものが出てきにくいはずです。
無知を放置したまま思い付きを口にする姿勢を学習させても良いことは一つもありませんし、自分には何のアイデアも生み出せないと思い込ませたくもありません。

❏ 調べ学習に向かわせる導入の工夫

調べ学習をきちんと行い、既知の範囲を押し広げるとともに、自分が知らないだけの「無知」と社会がまだ解明/解決していない「未知」の区別をつけさせるには、その導入フェイズでの工夫が大切です。
既に顕在化している問題やそれらに対する社会の取り組みなどについて生徒の知識を増やそうと、先生が色々なエピソードを話して聞かせたとしても、既に知っている生徒には退屈が続くだけですし、まったく知らなかった生徒にはピンときません。
まさに帯に短したすきに長しです。そもそも生徒が自力で調べる入り口を作っていないという点で作戦は「失敗」ではないでしょうか。
これから学ばせたい事柄についての記事や資料を提示して読ませるという正攻法もあれば、写真やデータなどを見せて生徒同士で知っていることを話し合わせたりするという手もあります。
記事や資料に登場したキーワードをインターネットで検索して生徒一人ひとりが調べたことを持ち寄らせて、グループで「この記事をどう考える」かをディスカッションさせれば、持ち寄った知識と気づきがイノベーションの土台と燃料になります。
如上の写真やデータでも、出典(WEBサイトや予め図書室に備えておいた書籍)を示しておき、それらを読んで調べさせることも可能です。
生成AIを使って問題を見つけ、掘り下げることも増えてくるでしょうが、提示された「尤もらしい」答えを唯一のものと鵜呑みにしない姿勢も育みましょう。(cf. ネットで検索した結果を鵜呑みにさせない

❏ 例えば、新技術を使ったビジネスの創造では

ドローンやロボットなど、ちょっと前ならSFの世界だったものが身近なものになり、周囲の様々な課題の解決に使えるようになりました。
それらを用いた課題解決・社会貢献を考え、それを社会に実装するためのビジネスプランを作るといった活動も各地で見られます。
ここでも、いきなり「先端技術を活用した社会貢献を考えてみよう!」と生徒に投げかけても、多くの生徒は固まるだけのような気がします。
社会課題の解決とひと括りにしても、イメージはぼんやりします。ロボットにしても、介護や医療、接客や観光案内、工場の自動化など利活用の先は実に様々。分野によって生徒の反応もバラバラでしょう。
まずは、可能な範囲で生徒に調べさせてみるところから。これまでにどういう取り組みがなされ、どんな課題があるかを探るうちに、好奇心を刺激する情報にも出会うはず。新たに見つけた様々なキーワードを辿っていけば、学びは無限に広がっていくと思います。
ある程度の情報が出そろったタイミングで、それらをKJ法などで整理してみると、ジャンル分けまでは割とスムーズに進むはず。
その中から興味や関心を持てるものを生徒一人ひとりに選ばせて、同じものを選択した生徒でグループを作り、活動の単位とするのも好適。自分の興味を学びのターゲットにできる分、その後の活動にも「取り組むことへの自分の理由」を持ちやすくなるはずです。

❏ 調べて終わりにさせない

調べたものを持ち寄らせて、話し合いをさせ、一定程度の盛り上がりが確認できても、そこでおしまいでは学びの深まりはありません。
「話し合いの前から自分が知っていたこと/調べて分かったこと」(A)

「新たな気づきをもとに、さらに深く調べ、考え、まとめた結果」(B)
を明確にさせて(=言語化させて)、両者を比較してみることで、活動を通して自分の学びがどう深まったかを確かめさせましょう。
AとBの差分こそが、その日の学びの成果です。ポートフォリオにログを残しておけば、指導の成果を検証する材料にもなります。

学びの前と学んだ後で、知っている範囲がどこまで広がったか、既に解明されていることを集めることで発想がどう広がったかを改めて認識すれば、「きちんと調べて考えることの大切さ」も実感できるはずです。
他の生徒や先輩たち、他校の生徒が同じテーマで考えたことに触れる機会を持てば、自分の成果を相対化する好機となり、次にチャレンジするときにどう頑張ろうかと、展望を立てることもできるかもしれません。
巨人の肩に上ってこそ、より遠くを見渡せますし、未踏の地をどう歩けばよいかの見当もつくということを、日々の学びの中での体験を通じて学ばせていくことは、主体的に学び、創造的に考える生徒を育てるために欠かせないものだと思います。
続編:アイデアを膨らませ、まとめる方法への習熟
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一