自らの工夫で得た成功体験は、学びの楽しさに

授業を終えて生徒から「楽しかった」「感動があった」という声が寄せられると、教える立場として大きな励みになります。そうした声の背後には、次の学びに向かうモチベーションの膨らみも想像できます。
学習における感動や楽しさには、その生まれ方によって大きく二つのタイプに分けられるように思います。強いて言葉を当てるなら、一方は、授業者や教材によって「外から与えられるもの」、他方は、学習者自身の「内から芽生えるもの」とでも呼ぶべきものでしょうか。

❏ 外から与えるものと、内から生まれ出るもの

生徒の興味・関心を引きたい、それによって積極的な学びの姿勢を引き出したいと考えるのは、指導者としてごく自然なことかと思います。
日頃から社会にアンテナを高く張り、生徒が関心を持っているもの(持ち得るもの)を探し、各単元の学習内容との接点を見つけ出せば、授業デザインのコアになる部分(材料と問い)も整ってくるはずです。
しかしながら、せっかく見つけ出した「好適な材料」も、すべての生徒の琴線に触れるとは限らず、期待したほどの反応がないと、そこで手詰まりになってしまうことも少なくありません。
2種類それぞれの「楽しさや感動」の性質を踏まえて授業をデザインできれば、より多くの生徒にとって「意味ある学びの場」が生まれてくるのではないでしょうか。まずは、両者の整理から取り掛かりましょう。

教師の語り口や教材の工夫、興味深い知識との出会いなどは、学習者にとって刺激的で、印象に残りやすいものです。授業者の熱意や構成によって、「おもしろかった!」と感じられる瞬間はたしかにあります。
単元内容の先にある研究や社会課題への取り組みを引っ張ってきたり、そこでのリアルな声に触れさせたりするのも有効な手立てになります。
ただ、この手の「内容や材料が生みだす楽しさや感動」は、単元の内容に大きく依存するため、別の単元でも同じ手が使えるとは限りません。
外発的な刺激によって一時的な関心を引くことはできても、それだけでは、継続的な学びに結びつきにくい面があるのではないかと思います。
前述の通り、生徒からの好反応を予想して用意したものが、想定通りの効果を得なかったときに、次の手が打てないのも弱点の一つでしょう。

一方で、学習者が自ら工夫し、試行錯誤を重ねながら課題に取り組むなかで、「できた!」という感覚を得られたときには、外からの刺激とは違う、より深い感動が生まれることがあります。
このような感情は、他者から与えられるものではなく、自分の経験から芽生えるものです。自分なりに考え、工夫し、やり方を見つけて取り組んだ結果として課題を突破できたときに感じられる達成感は、「自分は学ぶことができる」という実感、すなわち自己効力感につながります。

❏ 「できた!」という実感が、次の一歩を後押しする

自分で考え、工夫して取り組んだ結果として「できた!」と感じられたとき、学習者の中には特別な実感が残ることがあります。それは、「知識を得た」という手応えとは少し異なり、「自分の力で学習のプロセスを動かせた」という感覚に近いものかもしれません。
こうした実感は、学びに対する前向きな気持ちを育ててくれます。うまくいった理由が自分自身の中に見いだせていると、「次も頑張ってみよう」「今度はもっと工夫してみよう」と思えるようになります。
たとえ次の課題が少し難しく感じられても、「もしかしたら、自分にもできるかもしれない」と思えるだけで、最初の一歩が踏み出しやすくなるものです。
この「やってみようと思える気持ち」を支える心理的な足場が、自己効力感です。「学習という対象を自分でコントロールできる感覚」「工夫しながら取り組めば、何かを前に進められるかもしれないとの予感」と言っても良いかと。これが次の挑戦への意欲を支えてくれます。
自らの工夫で課題をクリアできた体験は「学びの楽しさ」として「今度もやってみようかな」という気持ちになるでしょうし、何より、思った以上にうまくいったという感覚は、自分の可能性を押し広げて捉えさせてくれるもの。そこには「自分に対する感動」もあるはずです。
自分の中にあった「境界線」のようなものが広がったと感じられたときに、新たな挑戦への意欲や未来への展望が生まれるのだと思います。

❏ 成功体験を「学び」に構成させ、定着させるには

自らの工夫によって課題を乗り越えられたとき、「できた!」という実感とともに、感動や楽しさが生まれます。その瞬間は、学習者にとってかけがえのない体験であり、次の挑戦への意欲にも繋がっていきます。
ただ、その感動がそのまま「学び」として根づくかというと、必ずしもそうとは限りません。うまくいった体験は、時間が経つとともに「うまくいったらしい」「なんとなくできた」という曖昧な記憶に変わってしまいがち。「体験を意味づけておくこと」も大切です。
たとえば、「どんな工夫をしたのか」「なぜうまくいったのか」「自分のどんな力が生きたのか」といった問いを通じ、出来事を振り返ってみると、自分の行動や選択がどんな意味を持っていたのか見えてきます。
振り返りの中で得られた気づきを自分の言葉で表すことで、経験は内に根を張り、再現可能な知として残っていきます。

また、振り返りを通じて「もっとこうすればよかったかもしれない」と気づくこともあるでしょう。それは次の挑戦への仮説となり、再び試してみたくなるきっかけにもなります。こうしたサイクルの繰り返しで、主体的に学ぶ姿勢、学習を調整する態度が育まれます。

❏ 「できた」を実感させるための、授業者にできる工夫

自らの工夫で課題を乗り越え、「できた!」と感じられる体験は、学習者の中に深く残ります。これらが自然に生じるのを待つのではなく、授業の設計や関わり方を工夫し、積極的に機会を創り出しましょう。
学びの中に「自分で考えて進める余地」があるかどうかは大切なポイント。正解も解法も一つに決まっている課題よりも、様々なアプローチがあり得る課題の方が、自分なりの工夫や選択を試すことができます。
振り返りでは、「成果」だけでなく「過程」にもしっかり目を向けさせましょう。同じアウトプットを求められることは稀でも、より良いプロセスを選び、適切に踏むことは、対処できる課題の幅を広げます。
結果の成否だけに着目すると、正解にたどり着けなかった場合、ゼロ評価になりがちですが、プロセスに着目し、それを評価していけば「もしここで別の選択をすれば」と考えるなど、自分の取り組みを肯定的に捉えることも容易になり、学習の調整も進みます。
他の学習者の経験に触れることも、相互啓発として学びを広げる好機です。他者の工夫や発見に共感したり、自分の取り組みと比較してみたりする中で、新たな視点も生まれます。試行錯誤のプロセスが共有されることで、「自分もやってみよう」という気持ちも強まります。
こうした学びの経験を支えるのに授業者の立場でできることは少なくありません。4つのフェイズに分けただけでもこれだけ多岐に亘ります。

  • 課題設計の工夫:複数の解法や進め方がある問いを用意し、自らの工夫が活きる余地を設ける。
  • プロセスへの着目:成果だけでなく、どこで何を工夫したか、そのプロセスを丁寧に見取り、声をかける。
  • 振り返りの仕掛け:「なぜうまくいったのか」「次に試してみたいことは?」といった問いを通じて、意味づけを促す。
  • 相互啓発の機会づくり:他者の学び方や工夫に触れられる場を設け、自らの視点を広げるきっかけとする。

繰り返しになりますが、生徒が授業を受ける中で「学びに対する自己効力感」を持てることは、「楽しさ」のみならず、自分の可能性の広がりに対する「感動」にも繋がり得るもの。ポジティブに学びに向かわせる仕掛けは、先生方の知恵と工夫の中から生まれ出るものと信じます。



学びの中で生徒が掴んでいく「できた!」という感覚や「やればもっとできるかも」という展望は、生徒が残したリフレクション・ログの中や授業中(あるいは終了後)の生徒同士でのやり取りにも表れます。
そうした声ややりとりを材料に、手応えを確かめながら「感動や楽しさのある授業」の実現を目指していきたいものです。重点的にその指導手法開発に取り組んでいる局面では、ミニ授業評価アンケートなどを用いて変化を定量的に捉え、効果を測ることも大切です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一