グループの成果をシェアして改善への仮説作り
前稿「参観メモをもとに小グループで気づきの交換」で紹介したような手順を、授業公開後の研究協議の冒頭で踏んでおけば、授業者の工夫や共有すべき優れた手法、改善すべき箇所とその修正案などの多くは、各グループの中で、既にかなりのところまで抽出されているはずです。
次のステップはグループごとに取りまとめた「気づき」を発表してもらい、知見の共有を参加者全員まで広げていくこと。共有したものを土台に「参観と協議で得られた指導知見が学習者にどう作用し得るか、指導目標の達成にどのように影響するか」を協議に参加するすべての先生方の所見を交わしながら、より深く考えていきましょう。
2017/10/26 公開の記事をアップデートしました。
❏ グループ発表は、板書役を配してしっかり記録
各グループに発表をしてもらうときは、口頭での発表を担当する「発表者」と別に、発表の内容を黒板/ホワイトボード上に構造づけて書き出していく「板書役」を置くのが好適です。
口頭で伝えただけでは、主旨は十分に伝わったとしても、発表内容の全容が構造を崩さずに、参加者全体の認識に長く止まるとは限りません。
新たな発想が生まれるのは、一見すると無関係な(別のグループがそれぞれの着想で考えた)ことが互いに結びついた瞬間だったりします。
如上の板書を行うことで、各グループの発表に含まれていた「様々なパーツ」が協議に参加しているすべてのメンバーの視野に固定されていることは、新たな知見や発想に生まれやすい環境を用意します。
研究協議の会場が教室だろうと会議室だろうと、黒板やホワイトボードは必ずあるはず。特別な設備を用意する必要もありません。
それまでに発表を終えたグループが残した板書と関連付けて、自分たちのグループの考えを書き出していくことだってできるはずです。
全グループの発表を終えたら、板書全体を見渡しつつ、「本日の成果」を参加者が個々に/参加者全体で確認していきましょう。
全体会の司会役や講評役の先生が、ファシリテーション・グラフィックの手法を駆使して、板書をまとめ直している現場もありました。
タブレット等で各グループがプレゼンをまとめて配信するのも結構ですが、一枚の黒板/ホワイトボードの上に、参加者の気づきと知見をまとめ上げていくことにも、大きな価値があろうかと思います。
❏ 授業の工夫がもたらした「効果」を検証する
ここまでの段階を経れば、参観した授業に倣うべき手法/改善に向けた知見が抽出されており、それらには「期待される効果」も結びついていると思いますが、その効果もきちんと検証しておく必要があります。
効果を検証しないまま、「取り敢えず、自分の授業で試してみる」のでは、生身の生徒を「実験」に巻き込むだけにもなりかねません。
学習活動の配列/授業デザイン(学ばせ方)の優劣は、それがもたらす付加価値の大きさ、即ち「学習目標の達成や生徒の成長(行動や考え方の変化)がどれだけ観測できたか」にあるのは言うまでもありません。
どれほど学習の場を盛り上げようと、洗練された流れに見えようと、学力(知識・技能のみならず、様々な能力・資質も含めたもの)の形成に繋がらないのであれば、そこでの手法が効果的とは言えません。
新たに採り入れようとしている工夫が狙う効果は、以下をはじめとして様々なはずです。21世紀型能力の基礎力、思考力、実践力の構成要素のどれを狙っているのかも改めて考えてみる必要があります。
- 単元固有の知識技能の獲得とその活用(結果学力)
- 生徒一人ひとりが実感する成長や進歩(学びへの自己効力感)
- 学びを通じて生徒一人ひとりが見出した、新たな興味や関心
- 学習行動の改善や学習方策の獲得(学習者としての自立)
単発/初回の研究授業で、それぞれの狙いに対する効果検証の方法を考えておくのは難しいかもしれませんが、何回かのシリーズで開催される場合なら、次回のテーマと狙いを決めた上で、授業案と並行して、効果検証の具体的な方法も考えていきたいところです。
❏ 獲得した知識・技能を測るのに好適な一問
指導法の効果測定は多面的に行うものであり、それぞれに対応したツール(テストやレポートに加え、アンケートやルーブリックなど)を使いますが、研究授業ですべてを網羅するのは少々無理かと。
いく度かの指導機会を重ねて(=一定期間の指導を経て)身につくものには、単発の授業だけでは指導の効果は表れません。
となると、研究授業における効果測定の対象は、上のリストの1~3でしょうか。2番目と3番目はアンケ―トやリフレクション・シートを用いて効果を測るとして、1番目は適切な問いを用意した上で、答案を採点してみるしかありません。
採点結果を見て、その日の学習内容の理解すら十分と言えないようなら改善の余地は小さくないはず。誤答の分布なども点検し、授業のどこを改めていくべきか、しっかり見極めて修正案を考えていきましょう。
効果検証のために用意すべきは、「その日の授業を受けた生徒が新たに答えを導けるようになって欲しい問い/考えをまとめられるようになって欲しい課題」であるのは言うまでもありません。
そうした問いや課題を、研究授業/研究協議に参加された先生方の協働で作り上げていくのも、面白いと思います。参加の先生が個々に考えたものを、グループ討議でブラッシュアップしていくのもお奨めです。
授業者が指導案などに記載した「指導目標」や「本時の狙い」はとりあえず置いておき、参観者の視点から、そのような問題を考えてみるところから始めてみるのも良いのではないかと思います。
❏ その設問の正答率/得点率の分布を想定してみる
指導の効果検証に好適な一問が用意できたら、採点基準を設定して、生徒の正答率や各採点基準の要件充足率を想像してみましょう。
先生方が予想した正答率/正答要件充足率には、かなりのバラツキが生じるのも少なくありません。ピタリ賞もいれば、大きく外れもいます。
参観中に生徒をどれだけ見ていたかでも違いが生じますし、普段から正答率を予測して実測値と比較する習慣を持っている先生と、そうした練習を重ねていない先生とでは予測の精度が大きく異なります。
正答率の予測が不正確というのは、生徒の理解度や頭の中での思考を把握できていないことを意味します。当然ながら、説明をひとつ行うにしても、押さえどころを間違えたり、前提理解を読み違えたりします。
また、授業者が、生徒が話し合ったり、理解を文字に起こしたりする場を十分に作らないと「観察の窓」は閉じたまま。生徒の観察ができません。参観者の予測がバラツクのは授業者の責によるところも大です。
❏ 正答率をもう一段引き上げる工夫を考えてみる
正答率の予測を行い、実際の採点結果と照らし合わせてみたら、さらなる「研究の仕上げ」として、正答率(≒学習目標の達成度)をもう一段高めるのにどんな工夫が可能か、知恵を持ち寄って考えてみましょう。
正答率/正答要件の充足度を高めるということは、より効果的な授業設計に近づいていくということにほかなりません。
そのカギの所在を、参観した授業を振り返りながら考えてみると、「前提理解の確認と補完」「導入時の目標提示の方法」「対話による学びの深まりを図る場面」など、様々な可能性が思い浮かんできますが、その一つひとつに、さらなる授業改善への道があるはずです。
参加者の知恵を出し合い、学習目標の達成をさらに引き寄せる方策を考える中でこそ、研究授業の目的である「授業改善に向けた知見の開発と共有」が達成されていくのではないでしょうか。
その3に続く。
このシリーズのインデックスに戻る
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一