様々なところで「学校と生徒・保護者の関係が変化してきている」と言われ始めたのはずいぶん昔のこと。生徒や保護者からの要求(≒学校への期待)は、多様で、かつてより強いものになっていると感じます。
こうした「膨らみ続ける要求や期待」に学校がどこまでも応えきるのは現実的には不可能。生徒・保護者からの要求とその出処である「学校への期待」の所在を上手くコントロールしないと、本来学校が果たすべき役割を遂行するの難しくなってきそうです。
当然、できることには限りがあります。ニーズと期待の所在を「自校が満たせるところ」に集める手立てを講じることた大切と考えます。
2021/07/15 公開の記事をアップデートしました。
❏ 学校がどこまで責任を持つか、明確に方針を示す
学校と生徒・保護者に限りませんが、「関係性」とは互いが相手に期待する役割によって決まるもの。良好な関係構築の前提は、互いが相手に求めるものと、相手から得られるものが一致していることにあります。
学校が生徒・保護者に提供するもので、何より優先すべきは「学校生活における安全・安心」と、生徒が未来を拓くために欠かせない「学力」の2つであることは一致するはずですが、それ以外のところでは双方が考える「相手への期待の範囲」に相違が生じがちです。
互いの役割に予め明確に線引きしておくことが、「こじれることのない信頼関係」を建設的に築いていくための起点の一つになると思います。
学校がどこからどこまで責任を持って指導に当たり、どの部分は生徒・保護者に担ってもらうか、校内で十分に議論を尽くした上で、内外のステークホルダーに対して明確な「方針」を示していくことが重要です。
ここで言う、ステークホルダーには、生徒・保護者だけでなく、自校の教職員や、将来の生徒になり得る受験生やその指導に当たる人々、さらには教育活動に関わってくださる地域の方々なども広く含みます。
学校の教育目標や指導方針に、理解と共感を持ち、賛同する人々が構成するコミュニティを、校内と周辺に形成していくことで、目指すものの実現へスクラムも組めますし、要求や期待の対立も抑えられます。
❏ 役割分担についての合理的な説明と事前の周知
学校の役割をどこまでとするかを考えるときには、経済学でいう「比較優位」という考え方を応用していくのが好適ではないでしょうか。
学校がその施設や環境、教職員の専門知識と技術を持って当たった方が効率に優れる(=コストパフォーマンスが高い)ところは、学校がきっちりと責任をもって取り組むべきであるのは言うまでもありません。
しかし、学校がそうした「優位性」を持たないところまで責任の範囲を広げたら、限りある教育リソースはあっという間に枯渇し、本来なら高いパフォーマンスが期待できた「本業」にも手が回らなくなり、結果的に、相手(生徒・保護者)にも不利益を強いることになります。
学校が担った方が効率に勝るところ/確実な成果が期待できるところは学校がきっちり責任を果たすことを大前提に、他の部分は生徒の自助努力や、家庭の協力、他のサポートを取り付けていきましょう。
こうした役割分担について、明確な説明も方針の表明もせず、曖昧なままにしていると、生徒・保護者からの要求や期待を一層コントロールの難しいものにしますが、そういう事例は思いのほか多いと感じます。
いざ、事が起きたときは、相手の言葉に真摯に耳を傾け、対話を重ねるべきなのは当然ですが、明確で合理的な方針を事前に打ち出し、校内外の納得を「予め」得ていたかどうかで、対話も中身が違ってきます。
❏ 期待の所在を収束させるのは「学校広報」
一方的に「お願い」を繰り返していては、「勝手なことをぬかすな」との反論が出るのは必至ですが、エビデンスと論理を伴った「合理的な説明」があれば、方針への理解と共感を得る可能性は高まります。
様々な学校の学校評価アンケートのデータを見ると、「教育目標や指導方針がわかりやすく示されている」と答える生徒・保護者の割合が増えるにつれて、学校生活への満足度が目に見えて高まるのに加え、個々の教育活動/指導場面についても肯定的な評価が着実に増えてきます。
目指すべきところ(=教育目標)やその実現方法について十分な説明をすることが、期待の所在を収束させ、それらを満たしやすい(不平や不満を生じない)状況を作ることが、如上のデータから推測できます。
また、指導方針や教育活動への取り組みだけを伝えても、その「成果」をエビデンスで示さなければ、取り組みの意義や価値に十分な認識を持ってもらえず、学校の取り組みへの理解や共感も得られません。
学校が、何を目指しているか、そのために何をやっているか、「思い」だけを熱く語ってみたところで、伝わるものが限定的でしょう。懐疑的な反応を招くことだってあり得ます。
誰しもが納得し得る「平明な論理と言葉」で、取り組みを説明できることが大前提。その上で、評価/効果測定を重ねて蓄積したデータに、成果が一目瞭然に伝わる「デザイン」を与えられるかが問われます。
生徒がポートフォリオに残したリフレクション・ログも、成果を伝えるのに好適な材料の一つでしょう。生徒に校内記者になってもらい、生徒目線で学校の取り組みと成果を伝えていくのも効果的です。
❏ 指導の場面が近づいたところでもタイムリーな発信を
校内では、生活・学習・進路の全領域について3ヵ年/6ヵ年を通した明確な「指導方針」を持つべきですが、生徒・保護者に対し、それらを一度にまとめに伝えても、余さず受け止めてもらえるとは思えません。
基本的なところ(すべての場面に共通するもの)は、「教育目標/教育方針」において、生徒募集の段階から周知を図る一方、個々の局面/時期での重点や主眼は、その局面を迎えるタイミングで伝えましょう。
そこまでの学校生活/学びで積み上げてきた経験とその成果なしには、各局面で目指すべきものも正しくイメージしてもらえません。
実際の指導の場面が近づいたら、具体的な指導内容とその目的、学校が責任を持つことと生徒の頑張りに期待するところなどを、学年通信/進路通信(口頭伝達ではモレやブレが懸念)などで伝えましょう。
個々の場面で情報/メッセージを発信するときには、学校の教育活動のすべてに通底する「基本的な方針」との整合性が読み取りにくくならないことにも、細心の注意を払いたいところです。
個々の広報に、学校ホームページの「教育方針」「建学の精神」などのワーディングと関連づけることを心掛けるだけでも、読み手は、個々のメッセージの意味を「全体像」の中で捉えやすくなります。
生徒・保護者と学校の関係(=互いに期待する役割)は状況とともに刻一刻と変化します。別稿のような方法で、学校が果たすことを期待されている役割を把握し、その認識を常にアップデートするべきなのは言うまでもありません。時代や周囲が変わっても何の対応もしないのでは、取り残されていくばかりでしょう。変化は進化を求めます。
但し、不易もあるはず。生徒や保護者からの要請に応えていくうちに、全体の整合を欠いては一大事。学校が実現すべき価値の確認と、それら再解釈/アップデートをバランスよく進めていくのが肝要です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一