手段科目としての言語系教科の学びを活かす場

以前の記事でも書きましたが、英語は目的科目から手段科目へと立場を変えていくように思われます。ある程度の基礎(言語材料の理解)を身につけた段階では、他教科を学ぶ中で様々な内容の文章を読んだり、考えたことを表現したりする機会をどんどん作ることが、言語能力の向上を促すはずです。同じ言語系教科である国語も同様かもしれません。
所謂「イマージョン・プログラム」(1960年代にカナダで始まった目的言語で他教科を学ぶ中で言語獲得を目指す方法)のようなものですが、他教科での学習や探究活動との重なりの中での言語学習に着目することは、カリキュラム・マネジメントの観点でも欠かせません。

❏ リスクのある全面導入ではなく、課外などでの宿題から

英語で他教科を学ぶ試みは、インタナショナルスクールに限らず、様々な学校でかなり前から行われてきました。いずれも周到な準備と多大なエネルギーを投じています。
そもそも、発祥の地であるカナダでは英語もフランス語も公用語。外国語として英語を学ぶ日本とは事情が違いますので、全面的な導入やイマージョンの実現を自己目的化するような運用には弊害もありそうです。
英語力の決定的な不足が障害となり、目的科目/教科の学びを阻害しては何にもなりませんよね。
しかしながら、夏休みの宿題の定番(?)である英語のサイドリーダーなど、カリキュラム外の宿題などで課すのであれば話は別です。
英語や国語の授業の中で培った「聞く、話す、読む、書く」の4技能を駆使して、自分事として向き合える課題に、自ら取り組む機会を与えることは、言語を学ぶことへの動機づけにもなるはずです。
授業中に、形式的な言語使用の場を増やすだけでなく、授業で身につけた読解力や表現力を、自分が抱いた疑問を解き明かしたり、考えたことを周囲に伝えたりする活動の中で実際に使ってみる機会を設けてあげた方が生徒にはよほど刺激的な体験になるのではないでしょうか。

❏ サイドリーダーの代わりに英文を探して調べ学習

サイドリーダーを与えるとき、学校が指定した書籍ではなく生徒自身に普段から興味があることを英語で書いた記事や文献を探させ、それを読んで行った調べ学習のレポートを英語で書かせてみてはどうでしょう。
きちんと宿題に取り組んだかどうかを点検するためという名目で広く行われている夏休み明けの「宿題テスト」より、調べ学習の発表の方が、生徒にとってはよほど刺激的である上、プレゼンテーションや相互評価などの活動とも組み合わせやすいはずです。
課題に相応しい英文を探すのだって、テーマで頻用される単語や語句でネット検索をかければ見つかりますし、そこから最適なものを選ぶのだって、将来必要となる文献や資料を検索することの練習になります。
生徒には難しそうだといってやらせなければ、いつまでたってもできるようになりません。少し背伸びして頑張らなければならない課題を与えることが、生徒の成長を促し、強い達成感を与えることになります。

❏ 普段の授業でも「学んだことを活用する場」を

調べた結果を英語でまとめさせるなんて生徒にはハードルが高過ぎるとお考えかもしれませんが、プレゼンやサマリーの定型を示しておけば、文献中に登場した語句を利用したり表現をまねたりすることで、想像以上に短期間でできるようになってしまうこともあります。
もし、「うちの生徒には無理」とお感じになるとしたら、普段の授業のあり方にも見直すべき点があるような気がします。
普段の授業でのリーディングの教材で、リテリングまで言語活動を拡張しておけば、事前の練習も十分なはずではないでしょうか。
本文で学んだことを使い、自分で考えたことを表現する場を設ければ、言語材料を一つひとつ取り出して覚えるだけの復習より、はるかに深い学びも実現できるはずです。
余裕のある生徒には、教科書の本文で読んだのと同じテーマで書かれた文章を与えて読ませ、両者の主張の違いを整理させて、いずれを支持するかを理由を添えて英語で意見表明させるのも面白いと思います。
こうした学びの機会の充実は、高大接続改革やその先の本丸である新課程が求める学力の養成、生徒の進路希望の実現にも貢献しそうです。

❏ 国語力養成は様々な科目や学びの場を使って多面的に

学習指導要領の改訂における教育内容の主な改善事項のトップには「言語能力の確実な育成」が挙げられ、以下の記述がなされています。


高等学校学習指導要領の改訂のポイント

  • 科目の特性に応じた語彙の確実な習得、主張と論拠の関係や推論の仕方など、情報を的確に理解し効果的に表現する力の育成(国語)
  • 学習の基盤としての各教科等における言語活動(自らの考えを表現して議論すること、観察や調査などの過程と結果を整理し報告書にまとめることなど)の充実(総則、各教科等)

国語では「現代の国語」と「国語総合」という各2単位の必修科目に加え、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」の4つ(いずれも4単位)が選択科目として用意されているのはご存知の通りです。論理国語が様々な物議をかもしたのは記憶に新しいところです。
ポイントの1つ目からは、体系的な推論の方法に習熟させる指導や、問いの求めに応じて必要な情報をスピーディ且つ的確にピックアップし、効果的に(=他者の理解と共感が得られるように)表現する練習にはこれまで以上の注力が必要になりそうです。
でも、これらは国語に限らず、すべての科目で必要とされることです。
ポイントの2つ目で、各教科における言語活動を「学習の基盤」としている以上、他教科を担当される先生も対岸の火事ではありません。

❏ 言語系教科の指導成果を活かすのは他教科と探究活動

数学、理科、地歴公民でも新テストの試行問題を見ると、多様な資料の読解力はこれまで以上の水準で求められますし、読んで理解したところを踏み台に思考を拡張し、考えたことを表現することが求められます。
国語の授業を通して生徒が身につけた効率的で論理的な読み方を、他教科の授業でもどんどん使わせることで全教科の先生が「寄ってたかって磨いていく」という学校全体でのコンセンサスが必要だと思います。
教科書や副教材、資料などを用意したら、書かれていることを先生が先回りして説明してしまうのではなく、解くべき問いを与えてから、生徒に自力で読んで理解することを求めるべきです。
また、探究型学習や教科内での調べ学習の成果を発表する機会や、それを評価する仕組みの確立にすべての教科の先生方が「自分事」として取り組んでいく必要もあろうかと思います。
新課程に組み込まれる「総合的な探究の時間」や「〇〇探究」という名称の各科目などは、その舞台として最もふさわしいものだと思います。
探究活動の資料収集、先行文献調査、サマリー、口頭発表などは、目的意識の明確な言語活動ですし、きちんとした評価もしやすいはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一