授業評価アンケートの集計結果は、個々の項目の評価値を別々に眺めるよりも、「目的変数」を設定した上で、それとの関連の中で個々の数値を解釈する方が、授業改善に向けた改善課題を捉えやすくなります。
授業評価アンケートの集計が終わったらで書いた通り、授業評価アンケートが担うのは「生徒の学びに対する意識」の把握であり、最も大切なのは「授業を受けて学力の伸長や自分の進化を実感できるか」という問いにどれだけの生徒がYESと答えてくれるかどうかです。
如上の問いへの回答を数値化した「学習効果」を目的変数として、その他の「伝達スキル」や「授業デザイン」などについて尋ねた評価項目の集計結果は「説明変数」として扱うのが好適です。
❏ 目的変数と説明変数の関係を捉える散布図
アンケートの質問項目を目的変数と説明変数に分けて、互いの関係を探るには、「散布図」を描いてみるのが一番手っ取り早い方法です。
下図では、縦軸と横軸にそれぞれ、以下の項目の換算得点を置いて作成した散布図に、横軸項目の得点分布のヒストグラムを重ねたものです。
【学習効果】 授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる
【活用機会】 授業で習ったことを使ってみる機会が整えられている
なお、縦軸においた目的変数での得点上位25%に当たる第3四分位数を点線で表示した上で、これに達している授業の分布をヒストグラム中に濃いグレーで表示してあります。これにより、全体の分布と学習効果の上位群の分布の違いがご確認いただけるかと思います。
❏ 近似線が目標ラインを超える値が改善を図る目安
散布図に近似線を書き入れ、目的変数の目標ライン(上の図では、肯定的な回答が概ね9割となる75ポイントに設定)と近似線が交わる点から垂線を下ろしてみると、目標達成が五分五分となる目安値が導けます。
上例に照らして言えば、活用機会で77.2ポイント以上に達したときに、目標ラインへの到達が5割を超える確率で期待できるということです。
ご自身が担当する授業の集計値がどこに位置するか散布図中に探せば、如上の目安値との位置関係はすぐにわかりますよね。
現状での授業評価アンケートは、担当されている授業の項目別集計値がすぐに確認できる状態で結果を戻してもらえているでしょうか。
せっかく授業評価アンケートを行っても、教科毎で結果を丸めてしまっているようなら、すぐに改めるべきだと思います。こうした授業改善に向けた課題形成ができなくなってしまうからです。
❏ 校内の優良実践に倣うのが、最も簡便で確実
もし、活用機会の集計値が目安値に届いていないようなら、グラフの中を「右方向」に移動することが先決であるのは明らかです。
授業の相互参観などを機に、当該項目で高い評価を得ている授業でのやり方を探って、自分の授業に採り込むのが最も簡便で確実な方法です。
校内にすでに存在している優良実践は、外から持ち込んだ手法より、自校生徒の学習者特性との整合性が高く保証されます。
アンケート結果に基づく教科会の実践報告を定例化すれば、優良実践の所在を特定するのも、その手法を知るのもより容易になるはずです。
言うまでもありませんが、優良実践の抽出と共有を図るには、「高い評価を得た先生からの積極的な発信」が何よりも大切です。
❏ 近似線から下方に離れた場合は、その理由を探る
一方、如上の目安値を超えているにも拘わらず、目的変数たる学習効果が目標ラインに達しない場合、近似線から下方に離れる何らかの要因がボトルネックとして存在するはずです。
近似線からの垂線方向の距離を統計では「残差」と言いますが、観測されたマイナスの残差を説明し得る理由を特定できるかどうかが、その後の授業改善の成否を分けます。
上の複合グラフで濃いグレーのヒストグラムに含まれる授業を参観しに行き(時間が合わないならビデオに録画して視聴)、彼我の違いを探ることが課題形成の入り口でしょう。
ちなみに、データに照らしながら多くの授業を観察している中で、活用機会を説明変数としたときのマイナスの残差(=近似線から下方への乖離)は、大抵の場合、以下のいずれかによって生じていることが次第にわかってきました。
1.活用機会として用意した課題を導入フェイズで示していないので、生徒に学習目標を認識させられていない。
→ 学習目標は解くべき課題で示す
2.説明にわかりにくさや、対話の不足で、用意した課題を解決するだけの道具立て(知識や発想)が整っていない。
→ 説明がわかりにくいと言われたら
3.課題の仕上げを個人のタスクに戻してじっくり取り組ませる部分が欠けており、せっかくの学びが定着しない。
→ 答えを仕上げる中で学びは深まる
それぞれに添えた当ブログの記事もご参照いただきながら、ご自身の授業を振り返ってみてはいかがでしょうか。
上のグラフを見ると、近似線を大きく上方に離れ、第二象限{活用機会<75、学習効果≧75}に位置する授業が少なからず観測されます。該当する授業を担当される先生は、活用機会の充実以外に学習効果を高める何らかの特別な手法を確立していると考えられます。
このような場合は、目的変数はあくまでも縦軸においた学習効果ですから、目的を達している以上、敢えて授業スタイルに手を加える必要性は低く、これまでのやり方を維持するのも合理的な判断です。
ただし、今後は新しい学力観に沿った学ばせ方への転換を図る必要も生じるはずですので、アンケートの結果は常に注視し、しっかりと変化を捉えていく必要があるのはいうまでもありません。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一