進路意識の高揚を図ることを目的に、生徒が目標としている大学に進んだ卒業生や、その大学の入試広報担当者を招いて講演会を実施することがありますが、せっかくの企画も単発のイベントに終わってしまい、継続的な効果をもたらしていないケースも少なくありません。
進路行事が、継続性のある進路意識の高揚や受験生としての個人/集団レベルでの成長という所期の目的を達するには、
- ひとつひとつの行事にじっくり向き合える余裕
- 行事を経ての振り返りを通した課題形成
- 目的を共有するコミュニティ(生徒の集団)の形成と維持
- 生徒が互いの気づきや課題をシェアする相互啓発
- 指導目標に照らした、進路行事そのものの効果測定
といったことを十分に意識した上での企画・運営が必要かと思います。
2019/01/31 公開の記事を再アップデートしました。
❏ せっかくの行事に生徒はじっくり向き合えているか
様々な行事が目白押しで、生徒は次々と訪れるイベントをこなしていくだけで精一杯という状態では、そこでの経験を学びに換えることは難しいのではないでしょうか。
ときには、複数の行事が同一日程で組まれて、参加することすらできないというケースも見かけます。
行事にじっくり向き合える、忙しすぎない学校生活の実現には、費用対効果に劣ったり、優先順位が低いと判断されたりした行事を年間予定から外していく必要もありそうです。
3ヵ年/6ヵ年を見通した「成長のストーリー」や教育活動のグランドデザインの中で、その行事が持つ意味や担うべき役割をじっくりと考慮して、一つひとつの行事をカレンダーの中に配列していきましょう。
❏ 事前指導を通して問題意識を刺激しておく
また、行事に臨ませるときの事前指導を通じて、生徒の問題意識を刺激しておいたり、準備を整えさせたりすることも必要でしょう。
何の準備もなしに会場に向かわせても、大事な情報やメッセージを受け止める態勢が取れている保証はありません。
進路行事が何のために行われるのか、そこで生徒に期待される成長は何なのか、しっかりと認識させて当日を迎えさせることが大切です。
気づいて欲しいことを「問い」の形で提示し、行事を終えたらそれに対する自分なりの答えを作ってもらうことになると、予告しておくだけでもかなりの効果が見込めます。
授業では学習目標は解くべき課題で示すのが効果的ですが、進路指導の場でも「問い」は目標を認識させ、答えを作るのに現時点で足りないものを求めようとする意欲を持たせるのに大いに役立ちます。
別稿「進路の手引きは冊子よりもファイリング形式で」で書いたように振り返りシートを事前に配布し、そこに記載した如上の問いをその場で読み合わせるという方法はいかがでしょうか。
❏ 講演者に対する質問を前もって作ることにも効果あり
進路講演の開催通知でタイトルや講演内容の概要などを伝えたら、「どんなことを聞きたいか」「今知りたいことは何か」を講演者への質問として個々に書き出させておくのもお奨めです。
教科学習指導の場合と同様、生徒に問いを立てさせることは、学びに向けた意識を高める最善の方法の一つです。
もう少し余裕があるなら、生徒が各自で作った「問い」をクラス/学年の生徒の間で共有しておくと、他の生徒が訊きたいと思っていることに触れて、関心が刺激されます。
相互啓発は、目的を共有する生徒のコミュニティを活性化するのに欠かせないものです。グループワークの時間までは取れなくても、ICT上でシェアするのは可能でしょう。
他の生徒が書いたものを読んで、改めて自分の質問を組み上げ直す生徒がいたら、行事に向かうレディネスはさらに高まったということです。
生徒が起こした質問を、予め講演者に伝えておけば、内容のアレンジもしてもらえますので、講演自体もバージョンアップが図れます。
❏ 振り返りはきちんと行わせる
進路行事を終えてきちんと振り返りをさせているかどうかも重要です。
単にリフレクションシートの記入欄を埋めるだけでは、「きちんと」という条件を満たしません。内省が浅く、気づきが不十分な生徒には、ツッコミをいれて再考を促す必要もあるはずです。
新課程への移行で、ポートフォリオの導入も進んでいるはずです。そこへの記入の点検も怠らないようにさせましょう。
好適な記述があれば、学年通信や進路通信などに載せて、他の生徒の目に触れさせることで、相互啓発の材料に活用するのも効果的です。
また、好適な記述がどのくらいの頻度で出現したかを見れば、行事が所期の目的をどこまで実現したか、効果を測定する際の判断材料のひとつになるはずです。
❏ 志望を同じくする生徒のコミュニティづくりの起点に
進路行事の中で、特定の大学や学部をターゲットにしたものは、目的を同じくする生徒が集うコミュニティの形成や維持にも活用しましょう。
特に、最上級学年への進級の前後では、生徒が互いの頑張りを支え合う集団作りのきっかけにできるかどうかが、その後の指導での選択肢を広げも狭めもします。
進路希望調査の結果や、模擬試験で志望校に該当大学を挙げている生徒のリストなどに照らして、その大学や学部に関心を持つ生徒を特定しておき、行事への参加をしっかり促しましょう。
講演後の座談会など対話を通して、大学関係者や卒業生との面識ができれば、志望意欲の一層の向上にも役立つのではないでしょうか。
実際にその大学に通ってみないとわからない魅力などを伝えてもらうことが、大学生活のリアルなイメージを作り、大学への進学意欲が高まるとのデータもあります。
❏ 講演者との事前の摺り合わせは丁寧に
大学職員であろうと、卒業生であろうと、好き勝手に話をしてもらっては、学校の指導方針との競合が生じるリスクを招きます。
特に、卒業生の場合は、個人的な成功体験をあたかも普遍的な知見であるかのように話してしまい、それを聞いた在校生の学びや取り組みを歪めてしまうことがあります。
進路指導部や学年進路の担当者が、講演者と事前にじっくり話をして、意図するところ(=行事を通じて期待する生徒の変化や成長)をしっかり伝えておきましょう。
確かに、「高校時代のこういう経験が役立った」「高校のうちにこういうことをやっておくべき」という卒業生からの助言や感想は受験生に良い刺激になると思いますが、あくまでも個人の経験則です。
ある生徒に効果的な方法が、他の生徒にも通用するとは限りません。
色々な方法を提示されて、そこから自力で適切な取捨選択ができる生徒ならいざ知らず、そうした力をまだ獲得していない生徒の場合、弊害の方が大きくなることも懸念されます。
卒業生の経験を伝えるときは、進路担当の先生がインタビューして聴き取ったことを普段の指導方針との整合性を確かめた上で、進路通信などに編集してから在校生に提示するようにした方が良さそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一