家庭学習の習慣形成や授業外学習の延伸を図るのは、学力の向上という目的のための手段です。ここでいう学力は、テストの成績などに現れる結果学力も指しますが、タスクマネジメントなども含んだ広い意味での「学ぶ力」のことです。
高大接続改革を前に教室での学ばせ方が変わる以上、家庭学習が果たす役割も変わります。教室を離れてじっくりと考えたり、課題を仕上げたりすることに十分な時間を当てられるかはとても重要です。
前稿(その1)では、どれくらい勉強させれば良いか合理的に判断する方法について考えるところをまとめてみました。
本日は、残っている2つの問題、「調査や集計が検証可能なデータの取れる方法で行われているか」と「学習時間を延伸する方策として宿題を増やすのが合理的なのか」について考えてみます。
❏ 平均値ではなく、目標時間をクリアした割合で
家庭学習時間の「平均値」を指標に目標を示したり、指導の効果測定をするのが好ましくないのは言うまでもありません。
極端なデータを含むほど平均値は最頻値や中央値から離れていきます。平均値と最頻値と中央値が一致するのは正規分布の時だけです。
そもそも、目標とする学習時間を設定したなら、目標を達成している生徒の割合で達成管理をするべきではないでしょうか。
生徒自身による学習生活の記録を、不自然な丸め方をせずにダイレクトにデータ化しておけば、様々な手法で解析もできるはずです。
❏ 一日の平均を訊くより、週を通して記録させる
一日あたりの平均学習時間はどのくらいですか、という訊き方にも問題があります。塾や部活がある日とない日では大きく違います。
学校の授業は一週間サイクルなので、週を通したトータルの学習時間を尋ねた方が良くないですか。
その日の生活だって、そんなに正確に把握しているわけではありませんよね。ましてや一週間ともなると…。
さらに、1時間単位/30分単位の選択肢から一つを選ばせるのもそろそろやめましょう。如上の「不自然な丸め方」そのものです。
質問に答える形で、「30分以上1時間未満」を選んだとしても、実際には31分かもしれないし58分かもしれない。両者は大違いです。
データを取得する段階で不自然な丸め方をしていては、後になってどんな工夫をしても意味にある結果は導けません。
学習生活の記録を取らせ、提出前に生徒自身に集計させるのが一番です。記録と集計を通して自分の生活を振り返ることもできます。
❏ 宿題を増やすより、履行率を高める有効な手立てを
家庭学習時間が足りないという認識になると、「じゃあ、宿題を増やしますか」と拙速な結論に走ってはいけません。
宿題を与えても履行率が高まらなければ、家庭学習時間の分布の尾が長くなるだけです。
真面目な生徒が寝食を削って宿題をこなしたとしても、これまでも形を整えるだけの取り組みしかしてこなかった生徒が意味のある勉強時間を増やすとは思えません。
宿題の量を増やすという選択の前に、じっくりと取り組め、やりがいを見出せるような課題を用意し、履行率を高めることが先決です。
❏ やりかけの状態を作ってから教室を離れさせる
予習・復習・課題のタイプについては、2020年対応型の”予・復習と授業のサイクル”に詳細を譲りますが、履行率を高めるには教室を離れさせる前の指導が勝負になります。
家に持ち返って仕上げるべき課題を、授業を終える前に少し考えさせ、解法やアプローチを話し合わせたりすることで、「やりかけ」の状態を作るのが効果的です。
やりかけの状態は仕上げたいとの欲求を生みます。解決への手掛かりも得ていますので手が出ないという状況も起こりにくいはずです。
❏ 帰宅直後の5分間のルーチンを作らせる
家に帰って、風呂に入って晩御飯を食べ、テレビやネットで気晴らしをしてから、さて勉強という流れでは、ようやく机に向かう頃にはもう眠くなっているかもしれません。
帰宅したら、まず5分間机の前に座って、カバンの中身を出し、今日のうちにやるべきことをリストアップする習慣を持たせましょう。
明日の予習、今日の宿題をメモに書き出し、どのくらいの時間がかかるか見積もらせれば、寝るまでの間にどのくらい机の前にいなければならないか把握できます。
寝る時間がおよそ決まっているとしたら、机の前に戻ってくる時間の想定がつきますよね。スマホでアラームをセットしておけば、動画を見ていてもアラーム画面が割り込みます。
やらなければならないことがあるのにやり始められないというのは、タスクマネジメントのスキルが身についていないからです。
そうした事情も踏まえてこそ、家庭学習の習慣形成に向けた効果的な指導ができるのではないでしょうか。宿題だけ与えて、あとは頑張れというのではちょっと乱暴かもしれません。