明確なテーマに沿った研究で継続的に成果を積む
授業を参観し、協議を通じて「より良い授業」を実現するための気づきを交換したり、学習効果をより大きくする方法を考えたりすることで、研究授業は所期の成果をおさめたことになりますが、毎回、これを繰り返しているだけでは発展的、継続的な取り組みにはなりません。
そもそも「研究授業」というからには、何らかのテーマにそって研究を進める場として位置づけを明確にする必要があるはずです。同じテーマに複数の先生が取り組み、互いの知見と発想を交換し合ってこそ、その組み合わせによって実りはより大きなものになっていきます。
参加される先生方のコミュニティで共通するテーマを持ち、それぞれが得た成果を共有し合い、磨き合えるような運営を目指しましょう。
2017/10/27 公開の記事をアップデートしました。
❏ 研究授業の終了に当たり、次回までの宿題を選び出す
前々稿、前稿でご提案してきたような形で研究授業を実施する中、その場で最適解を探り当てられなかった「宿題」が何かしら残るはずです。
その宿題を自校/自分が担当する授業に持ち帰り、実践の場で解決策を模索して、次の研究授業にそれぞれが成果を持ち寄るというサイクルを作りあげたいところです。
それまでに重ねた成果の上に、さらなる上積みを図ってこそ、よく言われる「継続的な授業改善」になり得ます。回を重ねて知見を深め、より良い指導に活かせる手札を(増やすだけでなく)磨いていきましょう。
参加者全員が同じ宿題になる必要はありませんが、複数の参加者が興味を共有できるようなテーマが幾つか挙がれば、それぞれの興味に応じてサブグループでの研究を進めていくこともできるはずです。
漫然と「より良い授業」を標榜して、特別な方向性も持たずに進める授業改善よりも、はるかに大きな効果をもたらしてくれると思います。
❏ 教室(自分の授業)に持ち帰り、仮説を検証する
次の研究授業までの宿題には、新たな手法を実地に試してみることと、その効果を検証することの2つのフェイズが含まれます。
前稿の最後で出てきた「学習目標の達成度をさらに引き上げるためにできること」に挙がった様々な仮説を採り込んだ授業をデザインし、実際の教室で試してみましょう。
新たな方法が本当に効果を上げるのかを試しているうちに、ちょっとした修正でより大きな効果が期待できることに気付くこともあります。
効果が現れてこないときは、仮説の組み直しも必要になりますが、安易に最初の仮説を棄却するのではなく、
- 仮説自体が間違っている(=粘っても効果は期待できない)のか
- 生徒の戸惑いが解消するのを待てば、やがて効果が出てくるのか
- 仮説の成立を妨げている要因がどこかに潜んでいるのではないか
など、問題の切り分けを冷静に行いましょう。実行ミスを作戦ミスと取り違えないことが肝要です。cf. 新しいことに生徒が戸惑いを見せても
言うまでもありませんが、効果測定は多面的に行う必要があり、
- 科目固有の知識・技能の獲得はテストや課題
- 学びに対する意欲や興味の向上などはアンケート
- 学習行動の改善はルーブリックなどの活動評価
など、測定対象それぞれに応じたモノサシをきちんと用意しましょう。
❏ 宿題の成果を持ち寄り、さらなる「気づきの交換」へ
それぞれが持ち帰った宿題は、その成果を持ち寄ってこそ、気づきの交換でさらに大きな成果に繋がります。
次回の研究授業が予定されているのであれば、それまでに「取り組みの経緯と成果」を書面/ミニプレゼンにまとめておきたいところです。
持ち寄ったものを回し読みすれば、効率よく互いの取り組みを知れますし、読み終えた後で相互の質疑応答をすれば、理解の補完も図れます。事前に配信して読んでおいてもらうことも可能でしょう。
書面に起こすのは面倒かもしれませんが、文字に起こしてみることで、それまでの取り組みを振り返っての新たな発見もあります。
起草の手間が過度に大きくならないよう、書面のスペースを敢えて小さくするのも好適です。特に伝えたいことに焦点を絞った記述が促され、書く側にも読む側にもハッピーな状態を作れるはずです。
以前にお呼ばれした研究授業では、はがきサイズのカードを使っておられました。読む側でも負担感なくじっくりと報告に目を通せます。情報の少なさが却って「行間」への興味を刺激したのか、相互の質疑応答も活発になっていたように感じます。
❏ 「授業法」以外にも協働での研究の対象とすべきもの
研究授業は、基本的には「授業のあり方」を研究対象にしますが、学習指導がより大きな成果を着実に結ぶには、他にも磨きをかけなければならないことが沢山あります。
その代表格は、定期考査や校内実力テストの質的向上と、問いの在り方の研究、出題研究からの好適課題の収集の3つだと思います。
とりわけ、学力形成の効果測定の指標としての考査問題の妥当性を高めることは、優先順位の上でトップに位置すると思います。
・新しい学力観に合わせた考査問題の最適化
考査問題で何をどう測るかは、何を教えるかと同義であり、指導主眼の最適化を図る上で考査問題の妥当性を検討していくのは不可欠です。
同じ単元の考査問題を持ち寄って、問い方の巧拙、採点基準の妥当性などを話し合ってみるのは、刺激的な学びになるはず。
現場で長く仕事をしていても、問題作りのノウハウを改めて学ぶ機会は少なく、我流になっていることも少なくありません。
・知識や理解に生きて働く場を与える好適な問い
教育改革の中で学力観が更新されていきますので、問いのあり方に焦点を置いた授業研究の必要性も以前に増して高まっているはずです。
どのような問いを発することが、生徒の思考を深め、対象への関わりを強く感じ取らせることができるか(=自分事とさせることができるか)も、先生方が互いに学び合うべきことのひとつだと思います。
・出題研究を通した良問の発掘と蓄積&共有
出題研究も協働で行えば、好適な材料の収集に加速がつくはず。入試問題を授業の教材に使うときに求められる知見も膨らんできます。
ひとりで入試問題集に向き合い、解き方/学ばせ方を考えていても、得られるのは自分の発想に閉じたものになりがちです。収集と蓄積のスピードにも限界があります。先生方がそれぞれに見つけてきた「良問」をどう料理して授業の教材にするか、一緒に考えていくのも楽しい時間になるのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一