臨時休校が続く中、教室での対面授業から自宅学習や遠隔指導といったイレギュラーな形に切り替えての学習指導が続いてきました。そんな中でご相談をいただくことが増えているのが「例年行ってきた授業評価を今年はどういう形で行えばよいか」というものです。
授業再開後に学校が日常を取り戻して一定期間が経過したら、例年と同じ方法・内容で授業アンケートを行い、継続的な授業改善を着実に進めて行く必要があることは言うまでもありませんが、喫緊の課題としては休校期間を含む学習指導をどう評価し、その結果をどう活かすかです。
各校のご担当先生から頂戴した電話やメールでのやり取りをベースに考えるところを記事にまとめました。何かのご参考になれば幸いです。
❏ 再開後の授業への円滑な接続には生徒意識の把握
普段通りの授業ができていない以上、例年と同じ形での授業評価はできませんが、非日常で行われた学習を学校再開後の授業に正しく接続するには、休校期間中の学びに対する生徒の意識の把握は不可欠です。
■ 休校明けの授業を円滑に再始動する
自宅学習で教材はしっかり理解できたかといったことだけでなく、科目に対する自己効力感の変化などもきちんと確かめておきましょう。学び方を工夫して自分のスタイルを確立できた生徒もいれば、戸惑いのなかで苦手意識を膨らませてしまった生徒もいるはずです。
いずれも生徒の主観ですので、聞いてみないことにはわかりません。
日常に戻った後の学びも休校期間中の学習からの影響を受けます。例年と同じ指導を行っても効果や反応は違ったものになるかもしれません。
普段と状況が違う以上、いつもの感覚に頼っては判断を誤るリスクを抱えます。データによる裏付けが普段以上に大切。教室での注意深い観察とアンケートの併用で生徒の変化を見落とさないようにしましょう。
こうしたアンケートも実際に授業が再開してから行うのでは指導の見直しに後手を踏む可能性があります。学校再開前にオンラインで行うか、授業再開前の分散登校日に実施することもご検討ください。
❏ 効果測定を行い、次の危機に備えた指導法の確立
学校再開後も新型コロナは消えてなくなるわけではなく、教室での対面指導ができない状況が再び生じるかもしれません。台風などの自然災害で休校が余儀なくされることだって考えられます。
そうしたときに備え、今回の取り組みの成果検証をきちんと行い、どんな指導が効果的だったかデータを用いて特定し校内で共有できたケースと、再び手探りに戻るケースとでは、生徒の学びを保証する力に大きな差が生じることは明らかです。
これまでの日常であった教室での対面授業ができないという制限の下で先生方がそれぞれに積み重ねてきた工夫が、学力をどう形成できたか、学びへの意識や科目への自己効力感をどう変えたかを確かめましょう。
今回の経験から知見を余さず引き出し、校内で共有できることは、将来に備えたリスクマネジメントの一つと考えるべきだと思います。
■ 知見の共有と実践の浸透をスムーズに
学校再開後の「自学自習状況調査」とでも言うべき学習指導評価では、特殊な環境下であったことを加味した評価項目(質問設計)のアレンジが必要ですが、目的変数を普段と同じ「学力向上感」に設定しておくことで、過年度との比較や定点観測の継続も可能です。
説明変数となる他の項目を正しく設定すれば、どこに力点を置いた授業デザインが、休校中の自習/遠隔指導における深く確かな学びの実現に有効なのかをデータで推定でき、将来に向け有為な知見が得られます。
❏ 自学自習状況調査は、休校解除のタイミングで
臨時休校の影響で授業カレンダーが大きく変わりますので、実施時期も昨年度と同じというわけにはいきません。
前述の「自学自習状況調査」なら、教室で再開した対面授業と混同されないように、休校が解除された直後(できれば授業再開前が好ましい)に実施することになります。
準備期間の不足や日程の都合で、全校での組織的な実施が困難という場合でも、各科目の「授業開き」で同趣旨のアンケートは行うべきです。質問用紙は、個々の先生が用意するのでは非効率。教務部などで一括して作成しましょう。マークシートを用いれば集計の手間も減らせます。
なお、学習指導の成果検証という目的ですので、自クラスの集計結果を相対化できないことには、出てきた数字だけでは良かったのか悪かったのかの判断もつきません。評価項目のうち、少なくとも如上の「目的変数」だけは全教科・科目共通とするようにしましょう。
言うまでもありませんが、前稿で申し上げた通り、休校期間中の学びの成果(=結果学力)は、確認テストか単元課題でしっかりと測定すべきです。単元課題での評価を導入すれば、中間テストを実施せずともその代替になり得ます。貴重な授業日数の節約にもなるはずです。
❏ 学習者に一定の働きかけをしたら、授業評価の対象
臨時休校明けに授業評価アンケートを行う場合、自学自習や遠隔授業をある程度以上システマティックに実施することができた教科だけに絞るという判断も必要かと思います。
対象にするかどうかを判断する基準は学校ごとのご判断になりますが、授業動画の配信やオンライン授業が実施できたケース以外でも、以下の条件に当てはまるなら生徒に評価を求めて良いと思います。
- 学習範囲と履行期限を示した上で履行管理を行った
- 採点可能なテストや課題で、学習状況を確認した
学習者に何らかの働きかけをした以上、それが効果的であったか、どんな影響を与えたかはきちんと把握しておくべきだからです。
しかしながら、中には、準備や環境整備が追い付かず、如上の2要件を満たすことができなかったケースもあろうかと思います。
そのこと自体にも非常時の指導をどうするか事前に考えておかなかったという点でリスクマネジメントには反省すべき点がありますが、それはさておき、実質的に指導をしていない授業に評価を求めても、余計なコストが掛かるばかりです。生徒も何をどう評価すべきか戸惑います。
❏ 質問設計は目的変数を固定+説明変数をアレンジ
質問設計は、別稿「休校中の学びを把握~リモート指導の好適手法の確立へ」でご提案したものをベースにご検討いただくのが好適です。
ポイントになるのは、冒頭で書いた通り、「目的変数」とする評価項目だけは普段と同じものとしておくことです。
教室での対面授業でも、臨時対応で行った自宅学習/遠隔指導でも、目的変数とすべき評価項目は「この授業を受けて学力や技能の向上、自分の進歩を実感できるか」です。違ってくるのは、説明変数として配置する、学力向上感に寄与すると考えられる項目群だけです。
目的変数である「学力向上感」を同一の質問文とすれば、前年同時期に行ったアンケートの結果と突き合わせることで、当期の臨時的学習指導がどの程度まで機能したのか推定できます。
多くの授業では通常期を下回る結果になるやもしれませんが、ほとんど低下が生じない授業もあるはず。中にはコラボレーションツールの活用が奏功して普段以上に手応えのある指導ができたという「さらに一歩先を行く事例」だって見つかるのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、統計的に解析すれば、「リモート学習指導において重要な(=学力向上感を支える重要な役割を果たしている)項目は何かが明らかになり、今後の授業改善に更なる効率化が期待できます。
追記: 授業や学習指導の評価が生徒によるアンケートだけで行われるものでないのは言うまでもありませんが、生徒によるアンケートが重要なパートを形成することもまた事実です。
学生が主体的に経験を意味付け知識を構成していく能動的学習に向かうべき中、学ばせ方を工夫していく上で生徒の主観・意識を訊くことの重要性はますます高まります。
学習の結果形成された学力を測定する考査や課題、学習方策や学習能力の伸長を捉える行動評価とともに、生徒による授業評価をきちんと活用し、生徒の学びをより確実に保証できる体制を整えるべきです。