生徒による学校評価アンケートや学級経営評価などを機に、自分が在籍するクラスの状況について生徒に、
- 教室内はいつも整理整頓され学習に適した環境が保たれているか
- 自分がいじめの被害者になったり見聞きしたりすることがあるか
を尋ねてみると、前者で高い評価を得ているクラスほど、いじめなどの被害者/目撃者になる生徒の割合が低い傾向が見られます。
手元に蓄積してきた様々な学校のデータを引っ張り出してみて、改めて回帰分析やクロス集計による残差分析で検証してみたところ、その傾向には例外なく統計的な有意性が確認できました。
2018/01/22 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 相関の背後には何らかの共通要因があるはず
教室内がつねに学習に適した環境を保っているかどうかと、教室でいじめなどの問題が生じているかどうかとの間に直接的な因果があるようには思えません。
そもそも、教室をきれいにしておけば、それだけでいじめの防止になるのなら誰も苦労はしないような気がします。
しかしながら、冒頭に書いたようにクラスの学習環境の整備といじめの発生防止との間には統計的に有意な相関が確認されていますので、「両者の背後には何らかの共通した因子があり、それが双方に作用して相関を生んでいる」と考えるのが妥当かと思われます。
背景因子として直ぐに思い浮かぶのは以下の3つくらいでしょうか。
- 教室の中の様子に向けられる学級担任の注意と意識の強さ
- 環境整備に取り組む活動の中で生徒の中に育まれた協働性
- 授業での教科担当者による観察や指導、担任との情報共有
❏ 担任が教室の様子をどのくらい気にかけているか
期限を過ぎた掲示物が貼りだされたままであったり、ロッカーにしまうべき荷物が机の周りに散乱しているクラスでは、教室を学習に適した環境に保つことへの担任の意識が希薄なのかもしれません。
教室に出向くたびに各所を点検する習慣がある先生は、同時に生徒の様子にも目を配っているはずです。
そうしたこまめな観察が、様々な問題が顕在化する前に、細かな変化からその芽に気づき摘み取ることに繋がるのではないかと思います。
観察で気づいたことをもとに、辺りの生徒に声をかけていれば、自ずとコミュニケーションも取れますし、先生がしょっちゅう教室に姿を見せていれば、何かあったときに生徒も相談をしやすくなるはずです。
多忙のなか、頻繁に教室に行けなくても、掃除の時間など、決まったときに必ず来るとわかっていれば、生徒はそのタイミングを待てます。
❏ 係の仕事、学習環境、成長の場の三者に見られる相関
生徒意識調査アンケートの結果を解析してみると、以下の3項目の間には例外なく、かなりはっきりとした相関が見られます。
【整理整頓】
教室は、いつも整理整頓され、勉強に集中できる環境にある。
【係の仕事】
学級の係や当番は、それぞれきちんと必要な役割を果たしている。
【成長の場】
私のクラスは、生徒が互いに刺激し合い、ともに成長している。
下表(相関行列)では、上記3項目が互いに高い相関で結ばれ、1つのブロックを形成している様子がご確認いただけます。
如上のデータからは、整理整頓や環境整備というタスクに、生徒が係の仕事などで取り組む中で、協働性が育まれ、互いが刺激し合い成長する場の土台となる、とのストーリーが描けます。
そこで得られた様々なものが、円滑な人間関係の構築にも資すると考えることができるのではないでしょうか。
❏ 教科担当者の意識も、重要なファクター
クラス担任よりも長い時間を教室で過ごすのは、授業を担当する先生だったりしますよね。
教科担当者としての意識もまた、背景要因のひとつとして、教室の環境整備と生徒間の関係性の双方に影響を与える可能性があります。
机間指導をこまめに行う先生なら、通路をふさいでいる私物を片づけさせるでしょうし、話し合いなどの機会を多く設けている先生なら、生徒のやり取りの中に何かおかしなものに気づくこともあると思います。
生徒の様子をきちんと観察して捉えようとする意識が、教室の中を学習に適した環境に保つ行動と、生徒間の関係性への注意や関心に転じると考えることもできそうです。
気になったところは、学級担任との間で情報を共有できますし、他の教科担当者にも申し送りを行い、より精緻に多角的な観察も行えるようになるはずです。
その結果、教室内の学習環境の整備は進みますし、生徒同士の問題がこじれる前に手を打つこともできるでしょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一