手帳を使った、日々の、あるいは週ごと月ごとの振り返りの効果は、その場だけのものに限りません。記録を残して定期的に読み返すことで、様々な副次的効果も期待できます。同じ轍を踏まないこと、そして成功したときの自己イメージを強く持つことも、記録によってもたらされる効果です。
❏ 反省や思いを記録に残すこと自体に意味がある
うまくいった時の記憶をはっきりさせておくことは、次の似たような状況で採るべき行動を示してくれます。成功体験に縛られて発想が狭くなってはいけませんが、自信をもってことにあたれることのメリットは小さくありません。
たとえうまくいかなくても、記録と照らしながら、改めるべき箇所を探しやすくなります。
また、失敗は人の常であり、残念ながら繰り返すことも多いものです。その場で反省をしたつもりでも、時と場を変えて同じようなことを繰り返してしまいます。
手帳は、1年間を通して使うものであり、かさばるものでもないので数年分を手元に置いても邪魔になりません。時々、読み返してみると、自分が冒す失敗のパターンのようなものに気づくとも少なくありません。自分に特徴的なパターンを知ることは、失敗を予防するうえで最善の方法の一つではないでしょうか。
また、疑問に思ったことや、やってみたいと思ったことも、少し時間が過ぎれば忘れてしまうのはよくある話です。自分に対する宿題として、メモを手帳に残しておけば、手帳を見返すなかで思い出せます。
その疑問を最初に思いついたときは、解決の方法も考える糸口も見つからなかったとしても、数か月間での成長や経験が、新たな展望をぱっと開くこともあります。完全に忘れ切ってしまったらそれまでですが、手帳に記録を残す習慣、手帳を見返す習慣が身に付いていれば、どこかのタイミングで大きく一歩先に進める可能性がぐんと高まります。
生徒に手帳を与え、日々の習慣として手帳を使わせること自体に、生徒の成長を促す機能が備わっていると考えることができるのではないでしょうか。
❏ 手帳が深める、生徒と教師のコミュニケーション
手帳を使って生徒の自己管理能力を高める指導に取り組んでいる学校では、ほぼ例外なく、「生徒とのコミュニケーションが密になった」「生徒をより良く理解できるようになった」との声が聞かれます。
生徒が自分の学校生活を振り返った結果、あるいは目標や予定を立てるために自分に向き合った結果に触れることは、生徒の内面を知る機会であり、如上の効果は得るべくして得られたものと言えそうです。
本稿では、手帳を用いた指導がもたらす効果と、そこでのTIPSを、各地の学校での実践例を踏まえて考えてきましたが、まだまだ色々な可能性が手帳にはありそうです。
手帳を持たせること自体が目的ではありませんし、技術の進歩で選択肢も増えてくるでしょうが、その効果を知り、自校での指導法ややり方の中で、同様の効果を得る方法がないか考えてみることは、生徒指導に新たな発想を広げていくきっかけになりそうです。
追記:
過日、日本生産性本部様のご厚誼で「学校経営トータルサポート総合説明会」を参観させて頂きました。詳細は、本年8月14日発行の教育新聞の記事「学生手帳導入で自己管理力向上」に譲りますが、オリジナルの手帳を導入した横浜清風高校の事例紹介は、大変興味深いものでした。かような機会を与えて下さった関係各位には、この場を借りて改めて感謝を申し上げます。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一