言い分に耳を傾け、公平に接する

前稿で取り上げた「期待する行動」との間で常に高い相関を示し、且つ学習者と指導者の関係をしっかり築く上での両輪をなすのが、この項目です。期待する行動を到達目標として生徒と予め共有しておくことで、一つひとつの指導の背後にある意図もより良く理解してもらえます。
学校評価アンケートでも、教育目標や指導方針をちゃんと伝えることに注力しているクラスほど、「生徒指導などにおいて恣意的でない公平な指導がなされいている」との評価を得ている様子が窺えます。
どんな期待をどんな言葉で伝えるかを考え尽くす中で、生徒指導の方針がより明確なものになり、ぶれない指導が実現することもまた、如上の高相関の一因でしょう。生徒に伝える期待の内容を、先生方の間で事前にすり合わせれば、教員間での指導のばらつきも抑えられるはずです。

2015/06/09 公開の記事を再アップデートしました。

生徒意識アンケート③ 公平な指導
担任の先生は、生徒の言い分によく耳を傾け、公平に接してくれる

繰り返しになりますが、この質問に肯定的な回答を高い比率に保つことは、生徒との関係性を築く上で欠かせません。「期待する行動」の打ち出しとのバランスを点検しながら両者を同時に改善していきましょう。

❏ 期待する行動の打ち出しとの間で強い相関

教える側の思いの強さは、ときに「おしきせ」と生徒の目に映るときもあり、メッセージの発信と生徒の思いを受け止めることのバランスを高い次元で保つことが必要です。
期待する行動の打ち出しと、言い分に耳を傾け公平に接することのバランスを保つには、両者のクラス別集計値をもとに散布図を描き、その中にご担当されるクラスの位置を把握するのが簡単で効果的な方法です。


期待する行動の打ち出しと、傾聴の姿勢・公平な指導の間には、前述の通り高い相関が見られますが、それでも、現実のデータを見ると、上図に示すように、近似線から上下に大きく外れるクラスも存在します。
該当するクラスは、両者のバランスが崩れていることになりますので、弱い方の強化を図り、赤で描いた「基準線」に近づけていきましょう。

❏ 理由を尋ね、解決策を見つけるのを待ってあげる

生徒の言い分を聴き入れることは大切ですが、そのまま受け入れるだけでは生徒の成長を促す機会を逃してしまうかもしれません。
期待する行動が取れなかったのには、それなりの理由があるはずです。
まずは、本人の言い分を聞き、あるべき姿に近づく方法を考えさせ、その結果を本人の言葉にさせていきましょう。考えさせる/誤りの起点を見つけさせるための手札は、言うまでもなく「問い」です。
解決法を先生が示すだけでは、「聴いてもらえた」より「説教された」という意識が先行します。(cf. 相手に行動や態度の変容を促すとき
生徒一人でその理由を取り除けない場合は、適切な支援をする必要がありますが、こちらでお膳立てを整えてあげるだけでは、生徒は自ら課題に向き合い、解決の方策を考える力を獲得するチャンスを逃します。
期待する行動に近づくことを妨げている障害が何かを考えさせ、どんな支援を得られれば、それを乗り越えられるかを言葉にさせれば、受援力を高める好機になるかもしれません。

指導する立場にいるとつい「答え」を示したくなりますが、ぐっと我慢することも必要です。こちらの思いもしっかり伝えた上で、生徒自身が答えを見つけるのを根気よく待つべき場面も少なくないはずです。

❏ 個々の指導場面の判断に確固たる拠り所を持つ

生徒が抱える悩みやそれが生まれる環境はそれぞれですから、「期待する行動」だけに拘っているだけでは「個に寄り添う指導」はできませんが、それでも「拠り所となる価値観」は必要だと思います。
個々の指導の背景にある意図を理解できなければ、指導を恣意的と感じるようになり、そこに不公平感のようなものを抱いてしまったとしても無理からぬところではないでしょうか。
また、生徒にどんな行動を期待するかを明確にして、教員間で共有しておかないと、指導に一貫性が保てず、生徒の側では戸惑いも生じます。
学期の切り替わりなどの折に触れ、先生方が集まり、学年や学期の課題に応じて、どのような期待を生活・学習・進路の各領域で伝えていくか摺り合わせをしっかり行っておく必要があります。
その拠り所となるのは、建学の精神や校是、教育目的などです。どんな生徒を育てたいかを最上位におき、そこから敷衍し得ることかどうかで個々に伝えている「期待」を精選すべきだと思います。

また、生徒募集に際して入学前の生徒と交した約束のことも忘れてはいけません。入学前に伝えていたことと、入学してみて実際に目にしたものが違えば、約束が守られていないことに不満を抱くのは当然です。

授業のこと以外にも尋ねておくべき“生徒の意識”
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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