前回に引き続き、教科書や資料を読むことを起点とした授業内活動について考えてみます。読んで理解し、文字を介した先人/作者と対話することも立派な活動ですが、自分が活動していること/そこで何かの学びや進歩があることを生徒が実感できるような仕掛けがあると、活動へのモチベーションも高まるのではないでしょうか。
読むことは、英語や国語といった言語系の教科に限りません。理科や地歴公民の教科書や資料を読みますし、数学でも解答を「読む」ことができるようにならなければいつまでたっても自学自習は不可能です。参照型教材を使いこなすのも読む力が前提ですよね。
❏ 問いを与えて教材を課題化することが活動の土台
文章をただ読んで、そこに書かれたことを何となく分かったというのでは、読みに深まりはなく、「正しく読めた」という手応えを得ることもできません。達成感が希薄な状態であり、次に向けたモチベーションや挑戦欲がかきたてられることもなさそうです。
教材はそのままではまさに「教えるための材料」に過ぎませんが、ひとたびそこに「問い」を加えると「解決すべき課題」に変貌します。
これを「教材の課題化」と言いますが、課題化することで、それが学習目標の提示にも学びの仕上げにも使えるようになるのは、「学習目標は解くべき課題で示す」や「答えを仕上げる中で学びは深まる」で書いた通りです。
自分の読みが正しかったことも、作った答えを模範解答に照らしてみて確認できます。これが確かな手応えとなり、科目の学びへの自己効力感や更なる挑戦意欲に繋がっていきます。
読むという活動を盛り上げ、成果に繋ぐには如上の「教材の課題化」がきちんと行えていることが前提ということです。
■ どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる
❏ 読んだ中に設問を立てさせる
しかしながら、教員が与える発問や教科書会社が用意している設問が、学習者一人ひとりの琴線に触れる保証はありません。
また、教材以外の、設問が与えられない普通の文章(文献や記事なども含めた)を読むときに、漫然とした受動的な読みに戻ってしまっては元も子もありません。
日々の授業、教室の内外で「生徒に問いを立てさせる」ことを繰り返す中で、書かれていること/与えられた情報に対して自ら問いを立てられる生徒を育てていくことも重要な指導目標の一つです。
英語や国語に限らず、地歴公民や理科でも、保健でも家庭でも、教科書を読ませたら、ポイントになりそうなところを挙げさせましょう。
時には生徒間で設問作りを競わせてみてもオモシロイと思いませんか。出題者の意図を見抜く練習にもなりそうです。
グループで問いの案を出し合いながらベストの一問を仕上げさせることを定常的に行っている国語の授業では、参観しているこちらが「おおっ」と感動するような問いを生徒が立てる場面を目にすることも少なくありません。
最初から上手に問いを立てるのは生徒にとって高いハードルですが、問いが立ちそうな部分を見つけて傍線を引いてくることから始めても良いと思います。どのような問いを立てたら、聞き出したいことにしっかり焦点を当てられるかはその次の段階です。
❏ 解説が書かれている場面で余計な説明はしない
模擬試験の解説は自分で読めと指示をしている先生でも、教科書に載っている例題の解説は読ませず説明しておられることがあります。
生徒自身に「読ませて理解させる」ようにしましょう。もともと読んでわかるように書かれたものなのに、先生が不用意に解説してしまったら、受動的・依存的な学習姿勢を強めさせるばかりです。
生徒にできることは教員が肩代わりしない、というのが鉄則です。説明したくなる気持ちをぐっと抑えましょう。
但し、解説を読んで理解できた気になっている生徒でも、大事なところを気づかずに読み飛ばしていることがあります。これに気づかず放置しては、後々の学びにも支障が出ます。
理由や解釈を尋ねて、本当にわかっているか確かめましょう。「増減表のここが空所になっているのはなぜ?」「4行目の x>0 、12-x>0 って何のこと?」 といった先生から発問が、解答を読める力、ひいては解答を作れる力を養うことになります。
❏ 教科書の記載を、2次元平面に展開して再構成させる
理科や地歴公民の教科書だって「読むこと」の対象です。書いてあることを分解・再構成することなく、マーカーで色を塗っているだけでは、ポイントを押さえてしっかり読んだことにはなりません。
文章で与えられる情報は、基本的には一行に延々と並べ得る「直線的」なものです。発話し、聞き取る情報と同じ構造であり、分岐や階層といった構造(項目間の連関)は明示されていません。
これを平面上に展開させる練習を重ねさせて、全体を構造化し、それぞれの項目の意味や相互の関係を把握できるようにしていきましょう。
情報収集と情報整理に関わる、読み手のスキルを高めることに通じますし、その先には協働の場で重宝されるファシリテーション・グラフィックの技法も身につくかもしれません。
最初は語句の抜出や箇条書きが精いっぱいで、情報の「分解」「列記」 に止まるかもしれません。
しかしながら、表組を使った交差分類、カラムを使った比較対象などの手法を、板書を通じて繰り返し見せつつ、手を動かした練習の場面を持たせていけば、生徒はそれらを自分のスキルとして獲得していきます。
フレームを事細かに指定して、項目を埋めるだけでは、指示に従った事実だけが残り、方策の獲得、スキルの向上という成果は得られません。
それぞれの生徒が整理した結果(成果品)を互いに見比べさせれば、情報整理の手札を大きく増やしていくことも可能です。誰に教えられるわけでもなくマインドマップ的な手法を見つけ出した生徒だっています。
読んだことを分解・再構成するという高度なスキルであり、獲得にはかなりの時間を食うと思いますが、日々の授業の中で少しずつ、辛抱強く練習の場を作ってあげることが肝要です。
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